服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第633回
ちょっとおしゃれな涼しさです

行水船というのを知っていますか。
もちろん「ぎょうずいせん」と読むのです。
行水そのものについては説明不要でしょう。
戦前までは庶民にとっての
ごく一般的な楽しみでありました。
たとえば夕方あたり、
小さな庭にたらいを持出して、
少しばかりの湯を張る。
ここでごく簡単に湯浴みして、
ささやかな涼をとったのです。

さて、行水船。
これは江戸期のひとつの商売であったのです。
水に舟を浮べてその上で行水をさせる。
もちろん有料です。
客はなにがしかの金を払って、
行水をするために舟に乗る。
まあ、粋といいますか、洒落といいますか、
江戸には江戸の豪奢があったのでしょう。

どうして舟かというと、
たぶん川風が魅力だったのでしょう。
行水にはぬるま湯で、
それもわずかに腰が浸るくらい。
これで湯浴みする。
そこへ川風が吹くわけですから、
むしろ肌寒いこともあったのでしょう。
同じ行水船でも今の時代にヨットやクルーザーの上で
これをやろうとすれば、
贅沢この上もないお遊びになってしまうでしょう。

もう本当に暑い時には、
私だって今様行水をやります。
庭もたらいもないけれど、
風呂があるではありませんか。
バスタブに湯ではなく、水を好みの深さに張る。
行水ですから、身体を洗うというより、
むしろ身体を冷やすことが目的なのです。
今風行水にもちょっとしたコツがありまして、
それはできるだけ風通しを良くしておくこと。
窓や扉を開けておけば理想的。
どうしても無理というなら、
扇風機でゆるやかに風を送らせる。

身体に水をかける。
その上に風が吹くわけですから、これは涼しい。
いや、涼しいを通りこして、寒い。
どうか風邪をひきませんように、
と注意しておきたいほどです。

バス・ソルトをどうするか、
1、2滴の香水をたらせてみようか・・・。
工夫は様ざま拡がってゆくでしょう。
温故知新、智恵をしぼれば
おしゃれな涼しさはいくつもありそうです。


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