| 第626回宛字と遊ぼう
 亜典と書いて何と読むか知っていますか。「アテネ」。
 もちろん宛字です。
 別に「雅典」と書くこともあったそうです。
 江戸から明治になって
 洪水のように外国語が入ってきた。
 この時、明治の学者は可能なかぎり、
 漢字に置き換えようとした。
 燐寸(マッチ)、煙草(タバコ)硝子(ガラス)、錻力(ブリキ)・・・。
 倶楽部(クラブ)なんて
 ほとんど名人芸ではありませんか。
 宛字ではありませんが、哲学。
 これは“フィロソフィー”の日本語訳なのです。
 最初、西周(にしあまね)が「希哲学」と名づけたのですが、
 やがて「哲学」として知られるようになった。
 これはもう発明というべきでしょう。
 私もときどきこんな漢字ごっこで楽しむことがあります。パリは巴里。
 だってこのほうが雰囲気あるじゃないですか。
 これから地名はなるべく漢字にしようではありませんか。
 せっかく先人たちが苦学して考えてくれているのですから。
 羅馬(ローマ)、倫敦(ロンドン)、紐育(ニューヨーク)華盛頓(ワシントン)、桑港(サンフランシスコ)・・・。
 いや都市名ばかりではなく、
 国名だってちゃんと漢字が考えられているものがあります。
 希臘(ギリシャ)、加奈陀(カナダ)
 土耳古(トルコ)、越日於比亜(エチオピア)・・・。
 まあそれにしてもよく面倒がらずに考えたものですね。
 こうやってふだんから宛字ごっこを楽しんでいると、
 やがて自分でも創ってみたくなるでしょう。
 これがまた頭の体操に最適なのです。
 この場合には地名よりも人名ですね。
 たとえば知人友人に外国の人がいたなら、
 その人の漢字を創ってプレゼントしよう。
 戸増可来留(トーマス・カーライル)、滋音麗恩(ジョン・レノン)
 破風炉火過疎(パブロ・ピカソ)・・・。
 もちろんこれはほんの練習ですから、
 あまり真剣に考えないで下さい。
 たしかに漢字力と創造力が問われるゲームです。
 友人の外国人に漢字名前を考えてあげ、和紙の名刺かなにかを作ってあげると、
 たぶん面白がってくれるはず。
 これもまた小さな小さな国際親善かも知れませんよ。
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