服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第548回
チノ・パンツ物語

チノ・パンツを穿いたことがありますか。
“チノーズ”chinosと呼ぶこともありますね。
ジーンズと同様、カジュアルで、丈夫で、
なんの気取りもなく穿くことのできる
便利なパンツです。

正しくは“チーノ”chino、
場合によっては
“シーノ”と発音することもあります。
今ではスペイン系アメリカ人の言葉から
生まれたと言われています。
ちょうどトーストのような肌の色を
“チー”と呼んだ。
生地の色が似ているところから、
名づけられたというわけです。

でも、もともとは
アメリカ軍が第二次世界大戦中に使った
作業服からはじまっています。
この時の色は、“オリーブ・ドラブ”。
つまり濃いオリーブ・グリーンだったのです。
今の「小麦色」とは少し違う。
戦後、この作業ズボンが
大量に民間に放出されたのです。
安くて、丈夫というところから、
アメリカの大学生が
夏の通学用として使いはじめた。
これが現在のチノ・パンツのはじまりなのです。

アメリカ軍は中国から大量に、
安くて、丈夫な綿織物を仕入れていた。
とくに名前もないので、
軍関係者が俗に“チーノ”(中国物)と呼んだ。
この仲間言葉が一般化して、
今のように使われるようになった。
とりあえず「小麦色」は無関係なのです。
ところがこの“チーノ”、
実際には英国のマンチェスターで織られていました。
この安くて、丈夫な生地はインドを経て、
中国に輸出されていた。
米軍はそうと知らず
「中国物」と当時は思っていたのです。

ごめんなさい、話が長くなってしまいました。
初夏にこそ、チノーズはふわさわしい、
と言いたかったのです。
チノ・パンツにオフ・ホワイトのスニーカー。
そしてあえて黒のポロ・シャツや
スポーツ・シャツを合わせる。
私はそんなはっきりと
コントラストのある着こなしが好きです。
洗いざらしのチノ・パンツは、
本当にビスケットみたいな感触があって、
気持の良いものです。


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