服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第487回
サスペンダーでおしゃれをしよう

チョッキを上手に着ようとする時に必要なものは
何だと思いますか。
それはサスペンダーです。
ベルトではなく「ズボン吊り」。
ベストの裾あたりでかさばらず、
よりスマートに着こなせるからです。

サスペンダーはアメリカ的な表現で、
イギリスでは主として
“ブレイシーズ”bracesと言います。
もともとは“ブレイス”braceですが、
左右両方にあって役立つところから、
常に複数形で呼ぶわけです。
さらに古くは
“ギャロウシーズ”と呼ばれたことがあります。
もっとも今ではほとんど使われませんが。

サスペンダーのおしゃれ、
というのはちょっと矛盾した響きがあります。
なぜならサスペンダーは
けっして人目にはさらさない、
ということになっているからです。
むかし、英国人は
どうしてもチョッキを脱がなくてはならない時、
必ずサスペンダーも一緒に外したものです。
つまり下着の一種と考えていたのです。

でも、どうせサスペンダーをするなら
自分でひそかに満足できるものを選びたいものです。
金属のクリップで留めるものより、
ボタン式のほうがはるかにおしゃれなのです。
タングとかストラップの名があって、
ヤギ革を使うのが正統派ということになっています。
ここに開けられたボタン穴を使って、
パンツの内側に留める。
つまりパンツの腰裏に専用のボタンを
前後6個付けておけば良いわけです。

現在のサスペンダーには
たいていゴム地が使われる。
でも本来はボックス・クロスという生地を使うのが
良いとされます。
これはラシャに似た生地です。
あるいは美しい模様をあしらったシルク地
という場合もあります。
いずれにしてもスライディング・バックルで
長さが調節できるので、問題はありません。
また、このスライディング・バックルには
ブラス(真ちゅう)を使うのが良いとされます。
まあ、見えないサスペンダーに気を配るようになれば、
当然、ベストの着こなしも上手になるはずです。


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