服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第475回
風情の研究

スポーツ・シャツを着る時、
襟元の第1ボタンを外しますか、留めますか。
これはなにも決りがあるわけでなく、
それぞれの好みにあるものでしょう。
私自身はごく自然に、
外して着ることが多いようです。

スポーツ・シャツ、
仮に軽いウール地のシャツであったとしましょう。
第1ボタンを外して着る。
けれども着る順序からいえば、
最初上から下までのボタンを全部留める。
で、しかる後に、第1ボタンだけを外して、完成。
このような手順を踏むべきだと思います。

どうぜ外しておくなら、
最初に留める必要があるものか。
あるいはそうおっしゃるむきもあるでしょう。
でも、実際には同じように見えて、
微妙な違いが生じるのです。
人の手が加えられているかどうかの、違い。
第一、一度ボタンを掛けてから、外すほうが
よりゆるやかな襟の開きとなるはずです。

もう少し、スポーツ・シャツの襟について考えてみましょう。
クリーニング店の袋に包まれて、
引出しに仕舞ってあったとしましょう。
中を開き、ボタンを外して、袖を通す。
もちろん、それでも結構です。
でも、その前に、襟の上端を両手で持って、
一度軽く振り下ろす。
と、当然襟は立った状態で、
より1枚の布に近いかたちになる。
こうしておいてから、袖を通し、襟を元通りに直す。
これも第1ボタン同様、一度立てた襟を倒す。
同じように見えて、違うのです。
あるいは両者の「違い」を信じる人と信じない人とがいる、
そうも言えるでしょう。

では、違うとすれば何が違うか。風情(ふぜい)の有無。
スポーツ・シャツの風情。
着る人の手によって加えられた表情、
風貌(ふうぼう)と言っても良いでしょう。
畳まれた襟を一度はっきりと立ててから、またふたたび折返す。
たったそれだけのこと。
でも、それはシャツに手を加えていることであり、
シャツと人との会話でもあります。
このような手順を踏むことで、
シャツは着る人のほうに近づき、
風情が生まれてくる。
このようなオトギ話を信じる人こそ、
着こなし上手に近づけるように思うのです。


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