| 第443回花一輪のおしゃれ心
 ドレス・アップのための時間がない、という経験ありませんか。
 たぶん誰でもあるでしょう。
 ある日突然、パーティーに出よう!とか。
 ことさらドレス・アップに背を向けるわけではない。
 気持はあるのだけれど、時間がない。
 でも、なにか方法はあるものです。
 気持さえあれば。
 パーティー会場の道すがら、花屋へ寄る。いや、その時間もない。
 誰かに花を一輪買ってきてもらう。
 あるいは食事会やパーティーがホテルであるのなら、
 必ず花屋が入っているはずです。
 花を一輪買って、上着の襟元にさしておく。ごくふつうのダーク・スーツであっても、
 とりあえずドレス・アップの気持だけは
 示すことができるでしょう。
 とっさの場合のドレス・アップ術。
 たしかにそうかも知れません。
 しかしこれは“ブートニエール”(飾り花)といって、
 19世紀にはこの上なく正統的な男のおしゃれだったのです。
 本当のしゃれ者で“ブートニエール”をしなかった男はいなかったほどです。
 “ブートニエール”boutonniere は
 もともとフランス語で「ボタン穴」の意味ですが、
 英語でも「飾り花」の意味になります。
 花を襟にさしていると、やがてしおれてくる。これを防ぐために、“フラワー・ボトル”
 (フラワー・ホルダーとも)が流行ったほどです。
 これは襟裏に下げておく、
 小さな、細長い銀製の花びんだったのです。
 飾り花は一般によくカーネーションが使われます。赤いカーネーションよりも
 白いカーネーションのほうが
 よりドレッシーだとされます。
 けれども飾り花はなにも
 カーネーションと限ったことではありません。
 襟とのバランスを考えて、
 あまりに大きな花でなければ、
 なんでも結構です。
 好みの花を襟にさす。
 小さな花が満開になっているのが、理想でしょう。
 茎を短く切り、花のガクのところまでしっかりとさす。
 するとガクがストッパー役となって、
 そう簡単には抜けませんよ。
 もちろん、ドレスアップしてなお
 花を飾る方法もありますが。
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