服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第400回
カケハギは心強い味方です

今回は、日ごろご愛読下さっている
読者のT.O.様から
質問メールをいただきましたので、
ご返答を掲載させていただきます。


■T.O.様にいただいたメール

拝啓 秋冷の候
ますますお洒落にお過ごしのことと
お慶び申し上げます。

ホームページにて
洒落た哲学を毎日楽しく拝見しています。
特にお洒落の大敵である汗染みの対処に関してのコラムが、
とても参考になりました。有難うございます。

さて、今は亡き父と
10年前にお揃いで購入した背広が、
一度も着ることなく虫に食われたことがわかり、
途方にくれています。

とても気にいったデザインなので、
残念でなりません。
捨てる以外に対処の方法がないのでしょうか。
突然の一方的なお願いで恐縮ですが、
何か良い対処の方法を教えて頂ければ幸甚です。

多くの読者の皆様、
特にお洒落な人も同じ悩みを抱いていると思います。

宜しくご教授お願い申し上げます。
冬も間近、カッコ良くご自愛下さい。 敬具

T.O.


■出石さんからのA(答え)

ご丁寧にもお便りを下さり、
ありがとうございます。
心より御礼申上げます。
また、日頃からご愛読頂いていますことにつきましても、
重ねて御礼申上げます。

さて、虫に食われてしまった背広の件、
さぞかしお困りのことでしょう。
お察し致します。
私も過去に何度か経験がありますので、
なおさらです。
しかもお父上の思い出が込められた洋服であれば
なおさらのことでしょう。

ところで一着に虫食いがあったということは、
他の洋服についても可能性がありますから、
充分注意して下さい。
まず最初になぜ虫食いということが起るのか。
それは生地を食べる蛾の幼虫がいるからです。
これを衣蛾(いが)と言います。
衣蛾以外にも種類があるようですが、
代表選手はこの幼虫なのです。

では、どうすれば幼虫を防ぐことが出来るのか。
まず第一に汚れた服、湿気のある服を
そのまま仕舞わないこと。
なぜなら虫はとくに汚れた部分、
湿った環境が大好きだから。
必ず汚れを取り、完全に乾いた状態で仕舞う。
それでも時折、虫干しをするのは、
より乾燥した状態を保ちたいからです。
その次に防虫剤を使うこと。
これは様ざまな市販品がありますから、
用途に応じて選んで下さい。

でも、それでも虫に食われたらどうするか。
もちろん修理の方法があります。
これを「かけはぎ」と言って、
かなり高度な、独特な技術なのです。
むかしは珍しくなかったのですが、
今は年々少なくなっています。
共布(ともぬの)がある場合はそれを利用します。
共布がない場合は、
目に見えない場所の布地を利用します。
それも不可能な場合は、
糸で生地を作ることもあります。

とにかく肉眼ではまずわからないように直ります。
当の本人が「アレ、どこだっけ」
という位には直るでしょう。
もちろん穴の大きさや場所、
程度などによって料金が違ってきます。
一度、専門の技術者に見せて、
納得のゆく値段なら直してもらったほうが良いでしょう。
たとえば都内なら「はせがわ」
(TEL:3424-8532)でも扱っています。
今後ともご愛読お願い致します。


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