| 第365回2つボタン主義か3つボタン主義か
 どうして背広に2つボタンと3つボタンとがあるのか、
 考えたことがありますか。
 もちろん変り型として4つボタンもあれば
 1つボタンもあります。
 さらにはダブル前には6つボタンもあれば
 8つボタンもあります。
 けれどもシングルの場合、
 その90%は2つボタンか3つボタンでしょう。
 いったいどう違うのか。
 そもそも背広の原型は5つボタンが中心で、今よりもボタンの数が多かった。
 むかしの軍服を想像すれば、
 すぐに納得されるでしょう。
 それが近代生活のなかで、4つボタン、
 3つボタンへと変化して行ったのです。
 そして実際には3つボタンくらいが
 バランス上も機能面からも具合が良かろうと、
 定着しはじめたのが、1920年代。
 ここからさらに変化して、
 2つボタン型が作られるようになったのです。
 さて、このボタンの引き算を「省略」だと考えるのか、
 「進歩」だと考えるのかが、思想の分れ道です。
 いくらなんでも思想とは大げさだろうと思うのですか。
 では、主義と言い換えましょうか。
 3つボタン愛好家は「オレは嫌いだ」と考える。一方、2つボタン愛好家は
 「オレは古くさいのは嫌いだ」と考える。
 どちらが正しいのでも、
 どちらが間違っているのでもありません。
 主義の問題なのですから。
 けれどもダンディズムの立場からすれば、なにごとによらず省略を嫌うところがあります。
 場合によっては襟裏に小さなボタンを
 付けさせることさえあります。
 昔、第1ボタンを留めた名残りを大切にしたい、
 というわけです。
 これは極端ですが、
 ヨーロッパの一流店で仕立てると、
 たいてい3つボタンをすすめられるのは、
 以上のような理由からなのです。
 私自身も、どちらかといえば
 3つボタン愛好派のほうです。
 古いほうが、省略しないほうが、
 伝統のほうが好きなのです。
 まあ、それはともかくちょっと背広を着る時にも、
 自分なりの主義主張をしっかり持っていたほうが
 似合ってくれますよ。
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