服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第338回
ニッカーボッカーズを穿いてみよう

ニッカーボッカーズを知っていますか。
膝下でくくる式のズボンのことです。
古い時代のゴルフ・ウェアといえば、
お分りの方もいらっしゃるでしょう。
あるいは今でも登山用に
ニッカーボッカーズを愛用している人もあります。
なぜか今、ニッカーボッカーズを
穿いてみたい気分になっているのです。

自転車に乗るときなどにもぴったりだと思います。
パンツの裾口をゴムで留めたりしなくても、
まったく邪魔になることがありません。
そしてなにもトゥイード地ばかりでなく、
ウールやコットンのニッカーボッカーズがあっても
良いではないでしょうか。

ところで“ニッカーボッカーズ”
Knickerbockersは
ちょっと妙な言葉だとは思いませんか。
長いので「ニッカーズ」と略されたりもしますよね。
実はこれ、人の名前からはじまっているのです。

1809年にワシントン・アーヴィング
(1783〜1859年)という人が
『ニューヨーク史』という本を書いた。
この時、本名ではなく、
ディートリッヒ・ニッカーボッカーという筆名を使った。
というのは、ニューヨークはオランダ移民が築いたのだ、
という物語であったからです。
いかにもオランダ風の名前にしようと考えたのでしょう。

この本は人気となって、何度も刊行される。
1850年代になって絵入り本が出る。
この挿絵を描いたのが、
ジョージ・クルックシャンク
(1792〜1878年)という英国人。
それで古い時代のオランダ人を思わせるような、
膝の下を紐で結んだズボン姿を描いた。
この絵と、ニッカーボッカーの名前が結びついて、
“ニッカーボッカーズ”の名前が生まれたのです。

おや、ムダ話が長くなってしまいました。
裾幅が広いとか狭いとか、
もう穿かなくなってしまったパンツがあったなら、
ニッカーボッカーズに直してみるのはどうでしょう。
今トラウザーズはたしかに紳士の服という感じはあるのですが、
足さばきが良くて活動的という意味では、
断然ニッカーボッカーズのほうが
優っているように思えます。


←前回記事へ

2003年9月5日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ