第266回
エレベーターまでご一緒に

雑誌の編集部へ行ったことがありますか。
私は仕事柄ときどきその機会があります。
成功している編集部にはやはり活気が感じられて、
こちらまで元気を分けてもらったような気持にさせてくれます。

ついこの間もＡ誌のＢ編集長と
お会いする機会がありました。
最近の出版社はモダンで、立派で、
驚かされてしまいます。
美人の受付嬢に案内されて、
エレベーターで上に昇る。
ビルの上階にその編集部はあります。

編集部というものは、
そして編集長というものは、
さすがに最新情報が集ってくるようです。
誌上で発表できる情報もあれば、
誌上では発表できない情報もあるようです。
まあ世間話といってしまえばそれまでですが、
聞くほうとしてはなかなかこれが面白いのです。

結局のところ、「なにか書下しで１冊・・・」
ということで話は終ったのです。
「分りました、なんとか１冊仕上げましょう」
と私も約束をする。

と、そのＢ編集長は応接室を出て、
エレベーター・ホールへ案内してくれ、
扉が閉るまで私を見送ってくれたのです。
私は素直に気持が良かったし、嬉しかった。
もちろんエチケットとして当り前じゃないか、
という人もいるでしょう。
あるいは室内で、あるいは出入口で
「さようなら」と言っても、
それはそれで不自然ではありません。

私としては自分の気持を大切にしたい。
エレベーターの所まで
見送って頂いたことが嬉しかったのなら、
逆の場合には私もそれをやってあげたい。
つまりエレベーターのあるビルに
私のオフィスがあったとして、
来客の折には必ずエレベーターまで
ご一緒しようと心に決めたわけです。

もちろん人の気持はさまざまです。
エレベーターまで見送るかどうかが
大切なのではありません。
人からしてもらって嬉しいことを、
相手にもしてあげる。
同じように嫌なことは人にも絶対にしない。
結局、人間のつき合いの要諦は
ここにあるのだと気づいたのです。