服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第238回
夏帽子の小さな秘密

「きのうの小さな事件」を読んで頂けましたか。
もし、読んで頂けたのなら、
その時私がいったいどんな帽子を被っていたか、
気になりませんか。
もし、その帽子を被っていなければ、
呼びとめられることもなかったわけですから。

私が被っていたのは、
「サマー・ホムブルク」とでも呼ぶべき帽子です。
正式名称があるかどうか知りませんし、
ひと口で説明するのは難しいでしょう。
カナダのビルトモアという帽子メーカーのもので、
買ったのはトラヤ帽子店です。

要するに細い繊維で編んだ夏の帽子で、色はベージュ。
最初、その形が気に入って黒を買ったのですが、
すっかり気に入ってしまった。
そこで色違いのふたつ目を購入した次第なのです。
これひとつとっても、
いかに好きになったかがお分り頂けるでしょう。

世にホムブルクという帽子は数多くあります。
たいていはフェルト製で、
ツバが前後とも美しく巻き上がっているのが特徴です。
そもそもホムブルクは19世紀末に生まれたもの。
1880年代、イギリスの皇太子がドイツの帽子工場を訪問した。
この工場はチロリアン・ハットを作っている工場だったのですが、
皇太子を歓迎する意味で、
新しいスタイルの帽子を作って献上した。
これが後にホムブルク・ハットとして有名になったのです。

それはともかくとして、繊維で編んだ、
夏物のホムブルクというのは実に珍しい。
というのはフェルトほど形が自由自在にならないからです。
でも一方、被る側からすれば、
本物のホムブルクよりも夏のホムブルクのほうが
気楽に被れるところがります。

とにかくそのサマー・ホムブルクを買って、
さらにいっそうカーブを強く、美しくつける。
まずスチームを使って蒸らし、
その後蒸気をとばせば、かなり思い通りの形が作れるのです。
で、その帽子を私は被っていた。
けれども「きのうの小さな事件」の初老の紳士には
そこまでの説明ができなかったのは、残念です。


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2003年5月19日(月)

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