服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第82回
なぜパテント・レザーなのか

タキシードにはなぜエナメルの靴を履くか知っていますか。
エナメル・レザー、またはパテント・レザーと呼ばれる、
表面をエナメル仕上げにした光沢のある革のことです。
デザインはたいてい“オペラ・パンプス”。
履き口の浅いスリップオン型で、
甲の部分に絹のリボンを飾ります。
これは“ボール・シューズ”、
“コート・シューズ”の別名があって、
もともとは宮廷での舞踊会で使われたところから
その名前があります。

ダンスの際、相手のドレスの裾を靴墨で汚さないために
エナメル革が使われるのです。
要は靴墨を使わない靴が狙いなのであって、
必ずしもエナメル革とは限りません。
おしゃれな人になると、サテン地やビロード地で
タキシード用の靴を作らせたりすることもあります。
また一方、エナメル・レザーでさえあれば、
必ずしもオペラ・パンプス型でなくとも良いのです。
オックスフォード型(紐結び靴)の、
ストレート・チップ(一文字甲)の
ドレス・シューズを組合わせることも可能です。

ところでエナメル・レザーを
なぜ“パテント・レザー”と呼ぶのでしょうか。
これはそもそも特許を得た革であったからなのです。
アメリカのニュージャージー州、
セス・ボイデンというなめし革業者が、
表面をニスで仕上げる方法を考案しています。
1813年のことです。
その後、さまざまな改良が重ねられるのですが、
1819年に特許を得たのです。
このことから今なお“パテント・レザー”と呼ばれるわけです。

オペラ・パンプスは軽くて履きやすいのが特徴でしょう。
でもその一方では少なくとも丈夫な靴ではありません。
もともと室内履きであったから当然のことでしょうが。
外歩きに弱く、雨に弱い。
本当はパーティー会場に入ってから履き換えるのが理想です。

履いた後は必ず木型を入れて型崩れを防ぎましょう。
エナメル革専用のクリームがありますから、
時折はこれで手入れをして下さい。


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2002年12月14日(土)

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