第76回
夜の服装の研究
タキシードがなぜ夜の服なのか知っていますか。
“アフター・シックス”(午後6時以降)
という言葉があるように、
タキシードは必ず夜間に着るのが正しいのです。
どんなパーティーであろうと、
昼間にタキシードを着るのは
あまり上品なことではありません。
タキシードに限らずフォーマル・ウェアの原則は、
ひと時代むかしの習慣を重んじる、ということにあります。
ここから非日常性、つまり正装感が生まれてくるのです。
19世紀の上流階級では
一日に何度も着換える習慣がありました。
朝の服、昼の服、夜の服。
なかでも重要だと考えられたのが、夕食時の服装。
例外なく燕尾服(イヴニング・コート)を着たのです。
タキシード(ディナー・ジャケット)は
いわば燕尾服の代用として着られるわけですから、
夜の服装ということになるのです。
逆にモーニング・コートは
昼間の服装であることはご存じの通りです。
では夜の服と昼の服とは、どこが決定的に違うのでしょうか。
それは夜間照明を意識しているかいないか、という違いなのです。
たとえばタキシードの襟にはたいてい
シルク・サテンなどの光沢に富んだ生地が使われます。
これはライトの下で美しいからに他なりません。
自然光のもとで着ることの多い
モーニング・コートに光沢の美しい生地を使わないのも、
同じ理由なのです。
自然光か夜間照明か。
これはアクセサリイについても同じことが言えるでしょう。
たとえばパールは昼の服装にふさわしいでしょうし、
サファイアやルビイはやはり夜の服ならではのものです。
つまりネクタイ・ピンやカフス・ボタンを選ぶ時にも
昼用か夜用かを見極めることをおすすめします。
光りものは夜用、と考えて間違いないでしょう。
タキシードにエナメルの靴を合わせるのも、
同じ理由からなのです。
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