服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第22回
おしゃれ上手は舞台演出家

朝、出掛ける前にネクタイを締める。
この時、一度としてどれにしようかと迷ったことがありません。
好きなシャツに好きなタイを結ぶだけ。なぜかと言いますと、
ネクタイ組合わせの原則を知っているからです。

ではネクタイの組合わせの原則とはなんでしょうか。
それは男の胸元は劇場である、ということなのです。
芝居とは何か。それは主役と脇役、
そして舞台背景があってはじめて成り立つ。
主役ばかりの演劇は騒々しいでしょうし、
脇役だけというのも盛上りに欠けます。
また背景がなくては滑稽でしょう。

ワイシャツ、ネクタイ、上着。この3つがそれぞれ
「主役」「脇役」「背景」の役割をになった時、
その胸元は必ず美しい調和となるでしょう。
これは必ずしもワイシャツが「主役」というわけではありません。
要するにこれら3者のうち、なにが「主役」で、
なにが「脇役」で、なにが「背景」かという認識が大切なのです。

たとえば大胆な格子柄の上着ならば、
それが主役ということもあるでしょう。
もしそうであるならネクタイは脇役、シャツは背景にする。
こうすることになって全体の整理がつき、
統一感が生まれるのです。
たとえばネクタイはダーク・グレイで、
ほとんど無地に近い感じ。
一方ワイシャツは
淡いブルーにするといった工夫をすれば良いわけです。

一般にチェックの上着にチェックのネクタイ、
あるいはストライプのシャツにストライプのタイは
避けるべし、などと言われたりします。
これはなにも柄そのものや、
柄と柄との組合わせが悪いのではなく、
役として主役が2人という結果になりやすい、
ということなのです。

ワイシャツ、ネクタイ、上着。
これにその時その主役の役柄と背景とを振りわける。
つまりおしゃれ上手の男というものは、
芝居の演出家に似ているのかも知れません。
これでもう毎朝のネクタイ選びが楽になったはずです。


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