| 第144回丸の内で見つけたパリの街角
  雨の日曜日、夏服を求めて銀座をさまよい歩き
 隣の丸の内にまで足を延ばそうとしたときのことでした。
 歩き疲れた連れが、辛抱たまらず
 お茶にしてくれと言い出します。
 そう言われてもなぁ、と私は辺りを見回します。
 けれど寒々しくそびえるビル街には、
 お茶なんていう温もりの気配は無し。
 丸ビルまで(あとたった100mほど)待てないかと尋ねれば
 「待てない」という短い返答。
 そう、連れはいつも声に出した時が限界点という人……。
 (子どものトイレと同じです)
 その時でした。
 1ブロック先に、赤いシェードにグリーンの壁が
 見えるではありませんか。
 ビル風に乗って、あたたかい空気が流れるようです。
 『ブラッスリー・オザミ』はその一角だけが、ぽこんとパリの街角のような佇まい。
 傘をたたんで飛び込み
 真っ赤なソファに腰を落ち着けたところで
 あらためてカフェの湯気の向こうに目をやれば
 姿勢正しいギャルソンに、スタンディング・カウンター。
 コーヒー豆の香り。
 フランスに旅したとき、やはり
 あまりの寒さに飛び込んだカフェの景色が重なりました。
 ここは、朝8時から24時までモーニング→ランチ→カフェ→ディナー→バーと
 表情を変えつつフルオープン、年中無休。
 行けばいつでも開いているという包容力のある店。
 パリジャンのように
 カフェオレをスタンディングでいただけば350円、
 テーブル席なら550円。
 仕事でここを訪れたのも、やはり雨の日でした。外はさめざめとしているのに
 店内奥の厨房は
 臨戦態勢に入ったコック達の熱気が漲っています。
 仕込みの邪魔にならないよう、気を遣いつつも
 ちょっと中を覗き込んだら
 そこにはフランス・ブルターニュから届いたばかりの
 活きのいいオマール海老や
 イタリア産のサマー・ポルチーニが
 箱でどっさりと並んでいました。
 このオマール海老を使ったブイヤベースは羽立昌史シェフのスペシャリテ。
 ホウボウ、穴子、舌平目ほか旬の魚介を
 エキスをとるためだけに使い、
 丹念にすりつぶします。
 煮込みに3時間、
 それを裏ごしするのに、なんと2時間。
 ゆっくりと濾されたスープは
 ドロッとしたピューレ状で、魚介の旨みをたっぷりと含み
 非常に濃厚。
 これに、磯の香りのするムール貝と
 身のぷりっとしたオマール海老が豪快に入っているのです。
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