至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第46回
めくるめくチーズの世界へ

レストランでフルコース料理を食べるとき
デザートの前に
私はどうしてもチーズが欲しくなります。
チーズはたいてい別料金ですから
そのためにディナーはいつも予算オーバー。
チーズに辿り着くまで
ボトルワインが空になってしまった日にゃ
グラスワインも追加しなくちゃならないしで、
ピーピーです。
連れの手前、いちおうすごく悩んでみたりもするのですが
どうも目の前の誘惑に負けない精神力が
私には欠けているようで。
「ま、据え膳食わぬはなんとやらって言うし」と
使い方を間違ってるような言い訳をしてしまうのです。

それにしてもチーズの世界は広い。
種類が多すぎるうえ
熟成度合い、店の管理状態によっても
味わいがまるで違ってきます。
逆にチーズをしっかりとコントロールしている店……それは
メジャーな種類や品数の多さでは決して無く
旬の魅力的なラインナップで
管理も行き届いているという意味で、ですが
そういう店は信頼していい気がします。
チーズに、レストランの姿勢が
垣間見えるのです。

ワゴンで、あるいはトレイに載せられ
うやうやしく現れるチーズ達を前に
私はいつもきっちり説明してもらうのですが
しかしメモを取らなければ、
グラスが空くころには「おいしかった」以外の言葉を
キレイさっぱり忘れていることさえある
教え甲斐のない客です。
それでも回数を重ねるうち、
霧が少しずつ晴れるように
ウォッシュタイプが好きだとか
この前のオレンジ色のチーズ(ミモレット)がおいしかったとか
自分の好きな傾向が、
だんだんわかるようになってきました。

その広い世界を、もう少しだけのぞき見しようと
チーズの講習会におじゃましました。
講師は、チーズの勉強のために
1年間イタリアに行っていたという西村亜紀子さん。
現在は都内のチーズショップに勤めていらっしゃる
チーズのプロです。

初めてお逢いしたとき
彼女は偶然私の本を持ってくれていてお互いに驚きました。
じつは彼女も
私が取材した時期と同じころに、
取材先と同じピエモンテ州にいたのだそうです。
その不思議な縁もさることながら
コックやソムリエ、カメリエーレだけでなく
チーズのためにイタリアへ行く人がいるということに
私はちょっとした衝撃を受けました。

考えてみれば
日本にイタリア料理とリストランテがこれだけ浸透した今、
料理やワインと同様、その場に立って
イタリアのチーズを学びたいという
日本人が現れるのは至極当然なんですよね。

イタリアのチーズは400種あるともいわれています。
料理がそうであるように、
地域によってまったく異なる、本当に奥の深い食文化です。
そこに飛び込んだ彼女が
伝えているチーズの世界はどんなものなのだろう?
単純な好奇心で、私はそのドアを開けました。


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2004年2月23日(月)

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