第98回
厄年は人生の転換期
男の四十二歳は厄年といわれています。
満年齢でいえば四十一歳。
このころになると、体調が変わってくるからだといわれていますが、
私は、もうひとつ精神的な変調もあるんじゃないかと思うんです。
三十代は、あまり将来のことなんか考えず、
自分の好きなことをしている。
ただ遊ぶだけじゃなくて、
技術や知識を習得する人もいるでしょう。
ところが、四十代になると、
将来のことがチラチラしてくるんです。
サラリーマンなら、いったい、
俺はどこまで出世できるのか気になってくる。
三十代を振り返るといろいろなデータが出てきますから、
同期入社の人と自分を比べて、つい焦ったりするんです。
家庭のことでも、何かと気がかりな問題が出てきます。
どうも子どもの成績がよくない。
どこかちゃんとした大学にでもはいってくれればいいけれど、
浪人でもしたら、
遊び呆けてグレてしまうのではないか。
おふくろも歳をとってきたから、
そろそろ引き取ったほうがいいんじゃないか。
そうなったら、女房とうまくやっていけるだろうか。
そんなことを考えていると、
だんだん気が滅入ってくるんです。
弱気になって、どうしたらいいかわからなくなる。
こんな状態が、ちようど四十一歳ごろなんです。
私自身、四十一歳のときは、どうしていいかわからなくなって、
一年間、小説を書きませんでした。
仕事らしい仕事は何ひとつやらなかった。
気分転換に流行歌の作詞をやったこともあります。
橋幸夫さんがそれをうたって、
意外にもヒットしたのが、「恋のインターチェンジ」です。
それでもウツは治らない。
「もう死んだほうがいい」なんて口グセみたいに言っていたんです。
そんなある日、私の机の上に封筒と手紙が置いてある。
女房からなんです。
封筒には二十万円はいっていて、
「気晴らしに、どこへでも好きなところへ行ってらっしゃい」
と書いてあった。
いまでもそのときのことを思い出すと、
女房には頭があがりません。
こういうときは、これといった治療法なんかないんです。
誰が何を言っても、効果はありません。
ある朝、雨だと思って窓を開けたら、
お日さまが出ていたといった感じで、
転換できる日がくるんです。
人によって、それが長かったり、
短かっ たりする違いはありますが。
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