第34回
お金に対する考え方は、顔に出てくる
大宅壮一さんは「男の顔は履歴書である」と言っています。
まことにそのとおりで、四十をすぎてくると、
その男のやってきたことが、顔に出てくるんです。
お金さえあればいい、
人生はお金がすべてとばかりにガツガツしている人は、
自然にモノほしげな顔になってきます。
端的に言えば、卑しい顔です。
風格がないと言ってもいいでしょう。
だから、四十をすぎたら、自分の顔に責任を持てというのは、
金銭的な面から言ってもほんとうなんです。
これは、美男子かどうかとは関係ありません。
ふとっているか痩せているかも関係ない。
だいたい、美男子なんて顔は、若いときしか通用しないんです。
若いころ美男子で、ちょっと年をとったら、
ひどく風格のない顔になったなんて男がいっぱいいます。
べつにひがむわけではありませんが、
美男子というのは、若いときに、
人よりトクをするというだけのことで、
容色が衰えるとだんだん、
マイナスに働くようになります。
たとえば、旅館の床の間に、
狸の置物はあっても、美男子の置物はないでしょう。
狸には風格があるけれど、
美男子では床の間に似合わなくなるのです。
そういう美醜とは関係なく、
この人は立派な人に違いないという印象を与える顔があります。
これは、やっばり、自然に刻みこまれていくものなんでしょう。
ですから、私は、私より若い人たちによく、
「これから何を考え、何をめざしているかによって、
顔が変わってくるから、注意しなければいけないよ。
僕自身にも言い聞かせていることだけど、
上手に年をとるのはたいへんなことなんだよ」
と言うことがあります。
たとえば商売を始めるとき、
何をやってもむずかしいものですから、
つい、手っとり早くお金が儲かる商売を考える人が多いんです。
風俗営業をやるとか、ラブホテルに手を出すとか、
とにかく回転がよくてお金の儲かる商売なら、
何でもやってみたくなるものです。
心の底では卑しい商売だと思っていても、
お金のためだから仕方がない。
そのうちにある程度儲かったらほかの仕事に替わろうなどと、
自分に言い訳をします。
でもうまくいくようになると、
ほかにこれといった仕事もありませんから、
結局、その商売をつづけてしまう人が多いんじゃないですか。
そういう人は、やっぱり、
いかがわしさが顔に出てくるようになるものです。
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