第1回
まえがき
お金は誰もが毎日のように使っているものだし、
見慣れていて別に珍しいものでも何でもないが、
「ではお金とは何ですか」ときかれると、
返事に窮してしまうまったく複雑且つ微妙な存在である。
お金は生活をして行く上で必要不可欠なもので、
十円足りなくても電車に乗せてもらえないが、
不思議なことにお金と縁のある人とない人がある。
たいして努力をしないでも、
一生お金に困らない人もあれば、
コツコツと巨億の富を築いても、
そのお金を使わないまま死んでしまう人もある。
また学問も教養もないのに、大金持ちになって、
天下の秀才を顎で使えるようになる人もある。
だから、「お金の神様は盲者で、
見境いなく人のポケットにお金を入れて行く」
とお金に縁の無い人から不平を言われる。
お金と縁があるかどうかは
人格とか社会的評価とは
あまり関係がないことは疑いの余地がない。
しかし、お金と縁がある人は
そうなるための原則を守る人である。
他人から尊敬されない人だろうと、
他人に嫌われる人だろうと、
お金とのつきあいはよくできている。
たとえばお金を大事にしない人のところへは
お金は集まって来ないし、
お金の約束を守らない人のふところから
お金は必ず逃げ出して行く。
お金のあるところへお金が集まるのは、
お金が淋しがり屋で
仲間のいるところへ集まりたがる性質を持っているからである。
『お金の貯まる人はここが違う』
というこの本のオリジナルは、
一九八五年にごま書房から出版された。
以後何十版を重ねて『株入門』に次ぐ
ロング・セラーとなったが、
12年たった九七年に装いを新たにして
『お金の原則』と題して再度、世に問うた。
「株の原則」は時代と共に
考え方を変えなければならない面があるが、
「お金が貯まる原則」は
どんな世の中になっても変わるものではない。
一ぺん身につけばその人の血となり肉となって
その人の行動方針になる。
反対に、お金が身につかない人はお金と縁がない人だから、
すぐ近くまで来てもそのまま素通りされてしまうのである。
この本を読んでいただければわかるように、
お金とよい関係を結ぶのはそんなに難しいことではない。
お金の貯まるルールを守れるかどうかだけのことである。
つまり、あなたの心掛け次第だということになる。
くよくよせずに、あなたもどうぞしっかり。
2000年12月香港にて
邱永漢
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