“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第650回
至福の真鴨泡汁

酒粕を用いる粕汁も旨い鍋の一つだ。
粕に含まれる乳酸が優しく作用して、
鍋全体をまろやかにしてくれる。
しかし、酒のモロミタンクの泡を用いた泡汁はさらに凄い。

粕は、モロミを絞って酒を取り出した残りの部分。
そこにいくらか雑味が含まれるが、
泡はモロミのエキス部分で、
とても綺麗な旨みのみで構成されている。
粕汁にまずは、真鴨の胸肉を入れて、
表面の赤みが見えなくなってきたくらいの、
半生状態でいただく。
鴨に泡のスムースな旨みが乗ってきて、
なんともいえない味わいが口のなかで続く。

合わせた日本酒は同じ秋鹿山廃70%の米違いである雄町直汲み。
酸がよくでていて、鴨の脂に対して、あと口よくキレていく。
さらに、エリンギ、椎茸、下仁田葱などの野菜をいただき、
汁をすする。
野菜に鴨と汁の味が染み渡っている。
身体がどんどん暖まってくる。

続けて、モモ肉も鍋に入れる。
こちらは、さらに芳醇な鴨の旨みが愉しめる。
汁も泡と鴨と野菜の味わいがバランスよく合わさってきていて、
なんともいえない旨みで、後をひくことこの上なし。
さらに心臓を試す。
プリっとした食感に、血の気の旨みが乗っていて、
秋鹿がさらに進む。
そして、レバー。
臭みなどは全くなくて、
とても綺麗な旨みが口のなかに広がる。
砂肝がまた秀逸。
コリっとした食感で、噛めば噛むほど、汁に絡まって、
肉汁がこぼれ出てくる。

久しぶりの泡汁を、
西崎ファームのシーズン最後の真鴨を具として
愉しむことができた。
毎日でも食べたい極上の旨さであったが、
年に一度味わえればいいくらい希少な経験だ。
泡はまだ余っているので、
次はどんな食材を具にするかが、愉しみだ。


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2007年3月2日(金)

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