“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第630回
高田馬場「真菜板」のカワクジラ

カワクジラといっても、川にいる鯨のことではない。
居酒屋の名店「真菜板」のメニューに載っている
クジラの皮の近くの脂を味噌漬けにしたものだ。

高田馬場「真菜板」は、
もと池袋「味里」の店長だった杉田さんが、
独立して1998年から始めたカウンターだけの小さい居酒屋。
最近は満席なことが多く、
常連といえども予約しないと入店を断られる可能性が高い。
杉田さんは、「味里」時代から地酒を扱う業界では有名人で、
地方の蔵元も一目おいている。
「真菜板」には、杉田さん自身が美味しいと思う
純米無濾過生原酒だけを揃えてある。
熟成酒も白影泉など、何種類か愉しめる。

奥様の作る料理は、いずれも「真菜板」の酒にとてもよく合う。
北海道や、鳴門の村公一さんから取り寄せた魚介類も
充実していて、野菜もとても旨い。
さらに、ゴルゴンゾーラなどのチーズを使った料理が
純米酒にとてもよく合う。
そんななかで、カワクジラは絶品。
もともと、鯨の皮の近くの脂は味が淡白。
それを、数ヶ月も味噌に漬けて旨みをたっぷりと蓄えている。
これが、熟成酒に実によく合う。

先日は古酒宴会を行ったときに、
置いてきた神亀純米吟醸ひこ孫の18年古酒が
まだ残っていたので、
こちらの燗に、カワクジラをあわせてみた。
カワクジラを口に入れて軽く噛む。
味噌の旨みに、鯨の脂が乗り、プルンと口の中で踊る。
そこに、すかさず「ひこ孫古酒」を流し込む。
脂に古酒の熟成香味が作用して、
そのなかの味噌の味わいがぐぐっと引き出されてくる。
そして、「ひこ孫古酒」の単独では可愛げのない、
どしっとした骨太の味わいが、
カワクジラの脂によって、やさしく開いてきて、旨みに変わる。
熟成と熟成が掛け合さってできる、
美味しさの小宇宙に酔いしれた一夜だった。


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2007年2月2日(金)

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