“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第549回
鳴門の漁師、村公一さんの進化

徳島について、岡田製糖所に行く前に、
鳴門海岸にある村公一さんの新しい水槽を見せてもらった。
入り江に数隻の漁船が係留されていて、
その一番端にある2隻が村さんの船。
その岸辺に水槽が構えている。
以前より容量は大きくなっているが、
魚をたくさん入れるためではない。
立派な浄化槽がつけられていて、
自然な水流が得られるような形状の工夫、
それに防音のための配慮がなされているからだ。

水は沖のほうからパイプで吸い上げている。
それが三重の浄化槽を通って、粘りをとる。
その水が勢いよく流れて、
水槽の端から滝となって地面に落ちていく。
水流を旨くつくることによって、
鱸や鯛などの魚は、それに逆らって上流へ向けて泳ぐ。
海のなかの自然の生態になるべく近づけているわけだ。
流れの先の滝の音が
自動車のタイヤから路面を通じて伝わる騒音を掻き消す。
水槽の厚みも以前よりも厚くなり、材質も変えてある。

今年に入ってからの村さんの鱸は、
東京の料理屋でさらに旨くなったと評判だ。
私も月に一回は食べていて、
昨年に比べて味の輪郭が
さらにはっきりしてきたことを感じている。
以前もとてもいい味であったが、
今年のものは無駄な味がせずに、
旨みだけが凛として存在感を示すようになっている。

村さんに言わせると、
どの改善対策が功を奏しているかは自分でも分からないという。
ちょこちょことした、
できることはなんでもやるといった、
マイナーチェンジの積み重ねをした結果として、
品質が向上したそうだ。

その後、漁場の大磯崎にも連れていってもらった。
久しぶりに訪問した岩場の多い海岸は、
サーファーでにぎわっていた。
その海岸の一番先端は、岩が多くサーファーも避けている。
そんな場所で獲れる鱸が旨いという。
サーファーが来るほどの大波がたまに襲うので、
操船には十分に気をつける必要がある。
まずは、堤防の手前に船を一時停めて、波の様子を見るという。
10から14回に一回だけ大波が押し寄せる様を観測して、
今後の予測にする。
このように、十分な注意と経験と感があってこそ、
美味しい鱸の漁場に近づけるわけだ。
他の漁師はこんな岩場では、漁をできない。
村さんだけの世界が大磯崎にある。


←前回記事へ

2006年10月5日(木)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ