第439回
誰が東京湾を壊したか?
戦後の高度経済成長期の
京浜工業地帯と京葉臨海コンビナートの
環境を無視した建設ラッシュは、
東京湾から海岸線を奪い、干潟を消滅させ、
漁場は漁業権を放棄せざるを得なくなった。
日本人は戦後の復興によって物資の豊かさは得られたが、
江戸の頃からの伝統的な食文化を支えていた
魚介類の宝庫を失ってしまった。
東京湾の埋め立ては、工業化以外の目的でも行われている。
その一つは昭和28年に、
たたきあげの実業家である丹沢善利によって始められた、
船橋ヘルスセンターの建設。
36ha(11万坪)が埋め立てられている。
船橋漁協の漁師1021人が漁業権を手放すことになった。
丹沢はとともに(株)オリエンタルランド社を設立し、
東京デズニーランドの建設をはかり、
浦安の海岸も埋め立てられることになる。
東京デズニーランドの先にあるのが、
最後に残された干潟と遠浅の海である三番瀬。
三番瀬は一時、全体の約半分の面積である
740ヘクタールが埋め立てられる予定で、
消滅の危機にさらされていた。
自然保護団体の反対などで、この計画は次第に縮小され、
平成13年に堂本千葉知事は計画の全面中止を表明して、
一難は去った。
しかし、千葉県の諮問機関である「三番瀬再生計画検討会議」は
平成17年に再生計画案を答申して、
あらたな埋め立て計画を推進する動きがでてきていて、
予断を許さない。
また、東京湾を横断するアクアラインの建設も、
漁場の消失や潮流の変化によって、
東京湾の生態系に多大な影響を与えている。
今後の東京湾で一番心配なのは、
2016年に開催予定のオリンピック。
東京も有力な候補地として名乗りを上げている。
そして、その計画では東京湾沿岸に競技場を設置するという。
東京都の広報資料
「東京オリンピックの実現へむけて」※1を見ると、
『3オリンピックで変わる東京の姿』という章のなかで、
『目指すべき東京の姿』として、
・ 効率的で高機能な都市
・ 安全で安心できる都市
・ 健康で安全な環境が確保された都市
・ 産業や人材の潜在力を引き出す都市
・ 成熟社会に相応しい風格のある都市
・ 文化と技術が融合した都市
・ 人間力と地域力を育むスポーツ愛好都市
とある。
これらのうち、3番目以外の項目を見ると
あらたな道路や設備を建設するために、
東京湾がまた埋め立てられる可能性が極めて高いことが伺える。
大変心配なことだ。
石原知事にぜひお願いしたい。
具体的な構想としては、ぜひ、東京湾の生態系を守る、
あるいは、復活させるような、環境保護策も同時に取り入れて、
江戸前の文化を世界にあらためて印象づけることも
主眼にしていただきたい。
※1 http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2006/02/20g2h501.htm
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