|  第399回築地で蕎麦屋酒
 「蕎麦屋酒」という言葉は私の造語ではないが、拙書の題名にしたせいか、
 最近色々な蕎麦好きにこの言葉が定着しているようだ。
 蕎麦屋に行く機会があれば、日本酒を飲まないのは犯罪だ。
 日本の伝統文化を気軽に愉しむ絶好の機会を逃している。
 さて、築地の「布恒更科」で蕎麦屋酒を一人で愉しんだ。ちょうど、銀座でブルーグラスバンドのライブの日だった。
 楽器をライブハウスに置いて、
 ささっと30分くらいで夕食をとる必要がある。
 銀座には料理店は五万とあるから、
 どこに行くかが贅沢な悩みになっている。
 よく利用するのは、近くの「吉田」。
 老舗の雰囲気を愉しんで蕎麦を食べるが、
 蕎麦そのもののレベルはそれほど高くはない。
 あとは、煉瓦亭や皆美など。
 バードランドとちょこっと焼き鳥と親子丼という手もあるが、
 短時間で切り上げるのは後ろ髪を引かれる思いが強くなる。
 そこで、今回は築地まで歩いて布恒更科に久しぶりに行った。一人で4人掛けのテーブルを独占させていただいて、
 早速酒肴と酒を注文することにする。
 大森店の息子さん夫妻の店だが、
 美人の奥さんが一人でサービスをしていて、
 客の注文にてきぱきと答えていて気持ちいい。
 卵焼きからいこうかと相談したところ、卵焼きは卵4個を使っていて、一人では量が多すぎるという。
 卵2個のハーフサイズもできないことはないが、
 それだと厚みが半分になって、
 醍醐味が半減するということで断念。
 結局は、「焼き蛤」「小柱の炙り焼き」「天抜き」を注文する。天抜きはお品書きには書いていないが、
 「天抜きは出来ますか?」との問いに、
 「はい、天麩羅はお好きなものを選べます」との答え。
 これはとても嬉しい。
 結局白魚天麩羅を選択。
 日本酒は竹鶴「秘傳」。まずは、蛤と合わせる。
 蛤は中くらいの大きさのものが三個並んで、塩の上に乗っている。
 いまがまさに旬。
 独特の旨みに秘傳の旨みが加わり、
 ライブのことなど忘れてしまいそう。
 次が白魚天抜き。こちらも旬。汁が天麩羅のころもに絡んでいて、まさに絶品の酒肴。
 そして、さらに残った汁を飲みながら酒を愉しむ。
 出汁と米の相性が素晴らしい。
 最後に小柱。香ばしさと秘傳の熟成香がよく合う。
 そして、もりをたぐって店をあとに。
 ここちよい余韻が口のなかにいつまでも残り、
 ライブ演奏は絶好調だった。
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