第395回
「にごり酒」は何故美味しいか?
モロミタンクで発酵を終えた日本酒は、
いよいよ上槽(搾り)されて最終製品に近くなる。
上槽は、
ヤブタ(自動モロミ搾り機)、
槽(ふね)、
首吊りの3種類のやりかたがある。
ヤブタはモロミを入れた布袋を横方向に重ねて、
横から圧力をかけて絞る。
比較的大量の日本酒を効率よく絞ることができる。
槽は、四角い箱の中にモロミを入れた布袋を上下に重ねて、
上から圧力をかけて絞る。
槽では手間隙がかかるが、最初は圧力をかけずに、
モロミの自重だけで絞ることができ、良好な酒質が得られる。
首吊りは袋絞りともいい、一番手間がかかる絞り方で、
500リッター程度の小さいタンクの上に竹竿を渡して、
そこに、モロミを入れた布袋を吊って、
自重で酒が落ちるに任せる。
一番自然にまかせた絞り方で、高品質の日本酒ができるが、
手間隙がかかる。
絞った酒は斗瓶で受けて貯蔵する。
しかし、この首吊りは
酒が空気に触れる時間が長いから劣化すると言って、
行わない蔵もある。
首吊りが終わったあとのモロミが入った布袋は槽に移して、
上から荷重をかけて絞ることになる。
ヤブタ以外の絞り方では、
上槽のあとの生酒にはデンプン、タンパク質、繊維質
などで構成される滓がまざっていて、白く濁っている。
この滓を沈殿させて上澄みだけを「滓引き」という。
この滓引きをしていない、
あるいは、滓引きを少なくしている酒が
「滓がらみ」あるいは、「にごり酒」となる。
また、滓引きで残った滓をさらに加えることもある。
このように、滓が加わっている状態では、
滓のなかの酵母が生きていて
ブドウ糖を再発酵して酒の成分に影響を与えたり、
死んでいても酵母の自らの酵素は活性を維持していて、
それが作用する。
この滓の悪影響を取り除くために、滓引きをするわけだが、
いい造りの日本酒は滓の味わいも雑味が少なく芳醇であって、
熟成も早く良くなっていく傾向がある。
この滓の旨みが、「にごり酒」の旨みとなっている。
しかし、完全発酵していない造りでできた滓は
残存糖分が多いので、
「にごり酒」はべたべたした甘さが残っているものが多い。
つまり、どの「にごり酒」でも旨いわけではなく、
完全発酵をした、いい造りの日本酒の「にごり酒」が
切れもあって、美味しいわけだ。
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