|  第285回生酒の常温熟成は本当に大丈夫か〜その2
 常温熟成を蔵元、酒屋ともあまり行わない理由は、酒の劣化、それも最悪な場合には、
 火落ちといって、火落ち菌に犯されることを心配しているからだ。
 乳酸菌の1種である火落ち菌が繁殖すると
 日本酒は白濁してしまい、香りや味が変化する。
 火落ちした酒を飲んでも健康には影響はないが、
 商品にはならない。
 火落ち菌はアルコールが好きで、他の雑菌が高アルコール度で駆除されても
 しぶとく生き残っている。
 しかし、65℃の温度で死滅するので、
 この温度で火入れが行われる。
 火入れの技法は
 パスツールが発明したことに西洋科学史ではなっているが、
 そのさらに数百年前に
 日本酒の製造で経験的に火入れが行われていた。
 火落ち菌は高温になるほど、また低アルコールで活性化する。それで、火入れをおこなっていない生酒は
 冷蔵保存することが常識となっている。
 蔵元、酒販店はお客にたしかな日本酒を提供する義務があるので、
 火入れをしていない酒を常温でおくことはまずない。
 しかし、私の二十年以上にわたる経験からは、
 管理か造りが悪くて火落ちした酒はいくらか見たことはあるが、
 自分で常温熟成した生酒で火落ちさせたことは無い。
 これは、多分選択している酒の造りが
 しっかりしていることが理由ではないかと考えている。
  (もと)造りの段階では、 それらの酒は打た瀬温度を低くしていて、
 雑菌はかなり駆除され、
 酵母も逞しいものだけが少数生き残っていて、
 火落ち菌に犯されにくい。
 また、そのようにしっかりとした酒を造っている蔵元は
 蔵の中を清潔に維持し、
 瓶詰めにいたるまで雑菌が入りにくいように配慮をしている。
 しかし、消費者が駄目もとでやる分にはいいとしても、
 蔵元や酒屋が生酒を常温熟成させるのはリスクが大きいと言える。
 消費者や居酒屋であれば、
 駄目になったものは捨てると割り切って
 色々な銘柄の常温熟成をしてみることをお勧めしたい。
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