|  第284回生酒の常温熟成は本当に大丈夫か?
 「世界一旨い日本酒」を出版してから、いろいろと読者からお便りをいただくようになった。
 「目から鱗で、とても美味しく日本酒を楽しめるようになった」
 「日本酒観が広がった」
 「小玉光久さんや蔵元さんたちの努力に感動した」
 という、賛同の意見がとても多いが、
 なかには
 「生酒を常温で置くのは危ないのではないか?」
 という疑問も寄せられている。
 執筆者としては、賛同の意見はとても心強いが、
 反対意見も聴かれて盛り上がるのも、歓迎である。
 実は、執筆の企画を練っているときに、反対意見が多く出されたほうが面白いのではという考えもあり、
 業界常識に反することをなるべく入れるようにした経緯がある。
 つまり、反論が多いことは予想していたわけだが、
 予想よりも反対意見の割合は少なく、
 また、その反論内容も想定内のものだった。
 主要な反対意見、疑問点は、「生酒は常温で熟成すると
 生老ね(ナマヒネ)を起こすはずであり、
 さらに、火落ちするのではないか」
 ということ。
 疑問提出者のほとんどは、
 吟醸酒マニア、吟醸酒主体の居酒屋、酒屋などだ。
 香りが命というような、日本酒の飲み方をしていると、熟成した香りが気になってくる。
 これは、全国新酒鑑評会での鑑定官の評価方法に原点がある。
 香りがある程度でている酒でないと
 受賞に値しないということがまずあり、
 それを基準として、あとは想定外の味、香りは減点となる。
 このように、減点方法で評価をしていると、
 その感覚を研ぎ澄ますほどに、
 自分の考えている味わい、香りから少しでも離れたものは
 マイナスとすることになってくる。
 拙書でふれたように、熟成酒は劣化というマイナス点と、味乗り、香りづけというプラス点を足したものが総合評価となる。
 マイナス面よりもプラス面が勝っていれば、
 熟成によって、日本酒はどんどん旨くなってくる。
 熟成味乗りの度合いは温度の影響が極めて大きい。
 一方マイナス面の劣化については、温度の影響もあるが、
 氷温にしていても劣化をふせぐことはできない。
 それで、味乗りの影響の大きくなるように
 常温熟成が面白いという勧め方をしているわけだ。
 常温熟成反対論者は自分で経験した結果に基づいた議論ではなく、業界常識からいいわけがないという結論を導いていることが
 ほとんどだ。
 自ら体験してもらえれば、
 拙書でいいたいことが分かっていただけるはずだ。
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