第129回
仕込み
和釜に乗せられた
甑(こしき)を覆う布が水蒸気で膨らんでいる。
いよいよ、米が蒸しあがる。
ボイラーの火が止められて蒸米は甑から取り出される。
スコップで手作業で取り出す方法もあるが、
秋鹿酒造ではクレーンで、
甑のなかに広げられていた布袋を引き上げる。
その蒸米を放冷機に落とす。
放冷機の入り口には回転機の軸に直角についている枝棒が
蒸米をほぐす。
その後蒸米はベルトコンベアーに運ばれ
冷風をあびて冷やされる。
麹米がまず取り出された。
取り出す前に谷淵杜氏によって、
種麹である「もやし」がふられる。
それを麻布に乗せて、
かわるがわる担いで麹室の床の上に運ぶ。
造りの種類によって
麹室の床に蒸米を広げて冷ましてから(引き込みという)
「もやし」をふることもある。
その後麹室で床揉みの作業に入る。
米を手で揉みほぐして、平たく広げていく。
種麹の菌が均一に蒸米の表面につくようにするための作業だ。
そして蒸米の温度が下がって30数℃前後になるまで待つ。
平たく伸ばした蒸米の各所に温度計をさして温度を測る。
望みの温度に下がったら、一塊にまとめて布でくるんでおく。
さらに上に何重にも布をかけて保温しておく。
この麹米は、その後数時間たってから
切り返しを行うことになる。
麹仕事がおわると、
こぼれた米粒を箒で掃いて麹室をきれいにする。
蔵仕事は掃除にはじまり、掃除に終わる。
暇ができたら、他の場所も
モップに水をふくませて床掃除をしておく。
清潔に保つことで、酒への悪影響を最小限に抑えられるからだ。
掃除が終わり、粕取りの仕事をすることになった。
秋鹿酒造では藪田という横から圧力をかける圧搾機、
槽という酒袋を摘んで上から圧力をかける搾り機、
それに小さめのタンクに竿を渡して
そこに酒袋をつるす首吊りの三種類の絞りをしている。
首吊りは自然に酒が袋から滴るのを待つが、
それが完了したあとはその酒袋は槽に積んで圧力をかける。
従って、酒粕がでるのは、薮田と槽の2箇所だ。
槽で絞ったあとの酒袋は酒粕でいっぱいになっている。
小さい板を斜めにしてその上に袋を置き、
叩いたり揺らしたりして酒粕を取り出す。
最初はとまどったが、
こつを覚えたら効率よくできるようになった。
そして、取り出した酒粕は20kg単位でダンボールに入れる。
このダンボール一箱が商品となるので、
酒粕の重さをぴたりと20kgに抑えることが必要で、
大きな天秤で測定する。
重すぎたら酒粕を取り出し、軽すぎたら追加する。
効率よく作業するには、
いかに20kgに近い状態で
酒粕をダンボールに積めて一発で検査をクリアするかだ。
ということで、
秤にかける前にどの程度の粕をつめたら20kgになるか
という感覚をまず磨くことにした。
そして、持った感じで20kgの重さを覚えられるように
訓練しながら酒粕積めをしていく。
このように、単純労働でも
工夫して楽しみながら作業を行うことは
自動車メーカーの研究所で働いていたときに覚えたものだ。
最後に20kgになったダンボールをパレットの上まで運ぶ。
これが70歳の屋さんが軽々と行っている。
私も負けずに運んだが、
酒造りはつくづく力作業の積み重ねということを学んだ。
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