|  第128回蔵の一夜
 午後5時に蔵仕事は一応終わり、夕食になる。秋鹿では近くの仕出料理店から
 ケータリングで夕食をとっている。
 ご飯は自分たちで炊き、
 味噌汁は奥常務の奥さんの真理子さんが作ってくれる。
 力仕事を続けたあとでは、何を食べても旨い。これこそグルメの原点だ。
 そこに、秋鹿純米酒の燗がつく。
 燗は薬缶で直接酒を火にかけて、大量につける。
 谷淵杜氏から酒造りの話を聴きながら飲む秋鹿の燗は最高だ。
 夕食が終わると杜氏から順に風呂に入り、自由時間となるが、それでも、蔵の様子を蔵人は夜も見に行ったりする。
 代司さんは麹の様子、
  屋さんは酒母の様子、 杜氏は全体を見てまわる。
 私も蔵のなかは勉強のために、夜もうろうろしていたが、
 蔵人の休憩所には酒がいくらでも置いてあるので、
 そちらも魅力的だった。
 翌朝は5時起床と早いので、
 だいたい蔵人は8時から9時頃には寝る。
 しかし、普段は遅くまで起きている習慣がある私は
 とてもその時刻には寝むれない。
 そこで、一人で休憩室で酒を飲みながら、
 テレビを見たり、パソコンを打ったりすることになる。
 で、随分酒を飲んでから屋根裏部屋に行って、あてがわれた布団に入る。
 いよいよ、朝の仕込みの仕事が経験できる。
 携帯で目覚ましのセットをしたが、それは不要だった。
 明け方のまだ暗いうちに周りでごそごそと音がした。
 目覚ましも使わずに杜氏さん、代司さんが起きていた。
 蔵仕事のリズムが身についているのだ。
 5時におきたら、目が完全に覚めるまで休憩室でぼんやりと過ごす。
 そして、5時20分からラジオ体操。
 それから、麹室での仕事が始まる。
 麹室では、出麹といって、仕舞い仕事をしてあって、
 床に寝かせてあった麹米を麻布に開けて、さらしておく。
 麹を枯らすという作業で、
 しっかりとしたいい酒造りに必要な工程だ。
 この間に、甑(こしき)で
 米を蒸すためにボイラーに火が入れられる。
 その米は前日に洗米したものだ。
 そうしているうちに、朝食の時間になる。朝も蔵人全員で一緒に食べる。
 その日の段取りなどの打ち合わせもする。
 そして朝食休憩が終わり、
 いよいよ、米が蒸しあがる時間となった。
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