“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第96回
たもぎ茸の美味

またまた、美味しい茸を初体験。
新大久保にある、カウンター主体のレストランでのこと。
このレストランは本田さんというシェフが
他のスタッフも置かずに、調理からサービス、片付け、
皿洗いまでをたった一人で行っている。
メディア業界の常連も多いが、
メディアに紹介しない不文律が守られている。

カウンター7名、テーブル席6名の小ぶりな店で、
本田さんの調理マネージメントがカウンターごしに見られ、
その見事さに驚かされる。
次の料理が出されるタイミングには、
すでに前の料理で使われた食器は
超高速の食器洗浄機で洗われて、片付いている。
店内が常に綺麗な状態になっていて気持ちがいい。

本田さんは、全国の有機栽培農家、漁師などと
ネットワークを作っていて、
自然の食材が意外性のある調理方法で提供される。
若い頃にジラルデに師事した
フレンチの技術がベースとはなっているが、
イタリアン、中華、和食の技も加わる。
9月にまる一月、1月には半月店を休んで、
世界各地に旅行して料理の研究も怠らない。

ある日のディナーは、厚岸産の鯖の焼き物から始まった。
裏表を桜とブナで別々に燻製させて焼いたもの。
その次に提供されたのが、
青森産「たもぎ茸」のスープだった。
「たもぎ」とは日本家屋に使う斜めの木のことらしいが、
「たもぎ茸」は、東北、北海道に自生する黄金色の茸。
食感は椎茸のようだが、癖がなく、上品だ。
茸の旨みたっぷりのスープの中に、
ぷるんとした切り身が入っている。
椎茸は苦手という連れが、
この茸は美味しいと言って、喜んでいた。

その後の、兵庫県の香住で獲れた越前蟹の蒸し物、
有機野菜のサラダ、デザートもとても秀逸。
しかし、初めての「たもぎ茸」が一番印象が深い夜だった。


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