“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第20回
日本一の豆腐

十数年前に豆腐造りに凝ったことがある。
大豆を水に半日浸しておき、
フードプロセッサーで砕いて火にかけ、
布で漉してオカラと豆乳に分離し、豆乳にニガリを打つ。
ニガリが全体に回るようにかき混ぜて、
温かいまま置いておくと豆腐になる。
いい大豆をたっぷり使えば、
美味しい豆腐を作るのは比較的簡単だ。

ところが、もっと美味しい豆腐が簡単に買えることがわかり、
豆腐造りはやめた。
その豆腐屋とは、横浜の宮城屋さんである。
この豆腐より旨い豆腐はまだ出会っていない。
以前、漫画の美味しんぼで紹介された
赤羽にある豆腐屋の豆腐と、宮城屋の豆腐を
ブラインドで比較する試食会を行ったことがあるが、
十数名いた味のわかる仲間は全員宮城屋に軍配をあげた。

大豆の甘みがそのまま感じられる豆腐なのだ。
醤油をかける必要もない。
そのまま口に含むと甘みが広がってくる。
あまりに美味しいので、
どんな造り方をしているのかを一度見学に行った。
工場は新横浜から車で10分程度行ったところにある。
工場の中はちり一つ落ちておらず、とても清潔であり、
整理・整頓されている。

社長の千葉旭さんに豆腐造りの話をうかがった。
まず、驚いたのは、
これまでは豆腐造りには向いていないと言われている大豆を
敢えて使っている点だ。
例えば、通常の豆腐屋が最高級の大豆としている「鶴の子」は
蛋白質が多く固まりやすいが、甘みが少ない。
宮城屋では北海道の「狩勝」などの、蛋白質成分が少なく、
豆腐としては固まりにくいが
甘みのある大豆をわざわざ使っている。
その大豆を天然ニガリで無添加で固められるのは、
手間隙と技術の蓄積の賜物だ。
宮城屋の豆乳を土鍋で温め、
そこにニガリを打っておぼろ豆腐を作るという裏技も
宴会で使える。


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