第8回
伝統導引功法二 八段錦

漢時代の五禽戯に次いで
広く影響を与えた伝統功法といえば、
『八段錦』以外の功法はないと思います。

八段錦という功法は創始者も創始年代も不明で、
もともとは道家修練者だけに限られて
伝授されてきたのですが、
宋の時代からは
道家に関わりのない人達にも伝授され出し、
広く普及するようになりました。
今では多くの流派と練習方法があります。

八段錦は八つの動作があります。
そして動作が覚えやすく健康効果も高い
という特徴から唐宋時代に
八段錦と名付けられました。
「錦」は高級で珍しい価値あるものの
象徴として使われていました。
この功法はとても人気があったので、
宋時代以降、養生の本や医薬の本などにも
よく転載されていました。

八段錦を練習する人の中には文人
(中国古代に詩詞、文書を専攻する人の呼び方)
もいましたし、
武人(武術を専攻する人の呼び方)もいました。
そのため八段錦には
文、武の二つの大きな流派があります。
文八段は運動量が軽く
文人達に合わせた練習方法であり、
武八段は武人達のような
体の強い人に合わせた練習方法です。

また、立ち式と座式の違いによっても
練習方法は異なってきます。
立ち式の練習法は
体の筋・関節・骨を中心とした増強功法であり、
座式の練習法は体内の気血の流れを中心とした
調整方法となります。

現代によく見られる八段錦の練習内容には
下記のようなものがあります。

1.双手托天理三焦(shuang shou tuo tian li san jiao)
  両手で天を支えるようにして三焦を整えます。
  主に胃腸の働きをよくします。

2.左右開弓似射雕(zuo you kai gong si she diao)
   弓道のような弓を射る動作で、主に心臓と肺の機能を整えます。

3.調理脾胃須単挙(tiao li pi wei xu dan ju)
   片手を交互に上げることで脾経と胃経がのび、
   消化機能を促進します。

4.五労七傷往后(wu lao qi shang wang hou qiao)
   五労*1七傷*2という病気を癒すために、
   首を回して後ろを見る形態をとります。

5.揺頭擺尾去心火(yao tou bai wei qu xin huo)
   心火*3を静めるために頭から尾底骨まで
   背骨を捻ったり振ったりするように動かします。

6.攅拳怒目増気力(zan quan nu mu zeng qi li)
   拳をにぎり目は怒らせるようにいっぱいに開き、
   全身に気力を充実させます。

7.両手攀足固腎腰(liang shou pan zu gu shen yao)
   足を突っ張り、両手でよじのぼるような動作で、
   腎と腰を鍛えます。

8.背后七顛百病消(bei hou qi dian bai bing xiao)
   背中(腎)を振動させるために伸び上がってから
   踵をストンと落として七回振動させることで、
   百病も消し去るといわれる動作です。

*1…五労とは五種類の過労症のことです。
    それは「見すぎ」、「寝すぎ」、「座りすぎ」、
    「立ちすぎ」、「歩きすぎ」の五つです。

*2…七傷とは七つの感情によって現れる心身の症状のことです。
    その原因とされる七つの感情とは「喜びすぎ」、
    「怒りすぎ」、「憂いすぎ」、「思いすぎ」、「悲しみすぎ」、
    「恐がりすぎ」、「驚きすぎ」のことをいいます。

*3…心火とは心の陽気が強すぎる状態で、
    不眠やイライラ感などの症状として現れます。


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