中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第97回
中国人と韓国人の区別もつかない日本人

いまアジアに大きな変化が起こっている。
一つは、三十年にわたる成長経済期をすぎて
日本がいよいよ成熟社会に突入してきたことであり、
もう一つは、入れかわりに中国が
成長経済への道を歩みはじめたことである。

どちらもそれぞれの国の人にとっては、
はじめての経験であるだけに、
不安と興奮で胸をふるわせている。

日本はバブルがはじけて
未曾有の不況におちこんだというけれども、
このまま地獄におちて再起できなくなってしまうわけではない。

かといって、すぐにも昔に戻って株や
土地のブームが再来するとも思えない。
日本全体が成熟期に入って、
物をつくっても以前のようには売れなくなるだろうから、
設備投資も鈍化するし、求人もひと頃ほどではなくなる。
したがって、月給はふえなくなるし、
人々は失業した時に備えてお金も使わなくなる。

企業の業績も伸び率が低くなるから、
株価の戻りもそう急カーブというわけにいかなくなる。
おそらく地価も長期にわたって上げ幅が鈍化する。

アジアの成熟社会がアメリカやヨーロッパとそっくりだとは
私も思わないが、
アメリカで起こった長期にわたる景気の低迷が
日本でも起こるだろうことは考えられないことではない。

失業がふえたり、治安が悪くなったりということも、
ある程度、覚悟しなければならないだろう。
技術もあり、生産能力もあり、資本もある日本が、
国内で思うように活躍できないとなれば、
日本人の中のかなりの人々は
次の仕事場を探して海外へ出かけざるを得なくなる。

一方、中国では共産主義のカサブタをつけたまま、
市場経済化へ動き、成長経済に突入してきた。
実のところ、大っぴらにロにしないだけのことで、
もう体制としての共産主義の実体は失われてしまっている。

向前走(前に向かって進め)という合言葉は
向銭走(銭に向かってまっしぐら)が本音だと言われても
反駁の余地はあまりない。

本家本元のソ連で木端微塵にされてしまったものが
中国で生き残れるわけもないのである。
現にいま私は、この原稿を香港のアパートで書いているが、
私のアパートの下にコンべンショナル・プラザという
国際会議場がある。

この国際会議場に北京市の市長を先頭に
傘下の各地区や企業のトップが二百数十名も出張して来て、
香港の企業家たちに投資の勧誘のための
投資貿易講談会をやっている最中である。

手っ取り早く言えば、
役所とマスコミを総動員しての客引きである。
たまたま私は昨年から北京市でマンション建設の
プロジェクトを進めていて、すでに基本契約はできているが、
せっかく香港に来たのだから
その成果の一つに加えさせてほしいと頼まれた。

今朝、その儀式に参加してテレビカメラの中におさまったから、
おそらくいま頃は北京のテレビ局から
ニュースとして流されていることだろう。

中国の政府がこれほど熱心に外国資本の導入に力を入れるのは、
もとよりはじめてのことであるが、
この勢いで開放政策を推し進めれば、
それなりの成果があがることは間違いない。
それも上から押しっけられて
いやいややっているのではなくて、
上から下まで協力体制を組んでおり、
民衆の後押しがあるから、
人民政府成立以来の一大国民運動と言ってよいだろう。





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2012年11月13日(火)

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