第82回
質屋を見れば経済感覚の違いがわかる その2
ある時、家内の親戚がサンフランシスコから
東京の私の家に訪ねてきた。
その人は、アワビやフカのヒレなどの
中華料理の高価な素材を扱う商売をやっていて、
チャイナタウンではかなりの顔役だそうである。
何年か前に中風にかかって歩行も不自由な様子であったが、
一生働きずくめに働いてきたので、
この一、二年はお供を連れて
もっぱら世界旅行をしてまわっているという。
横浜の中華街で大きな中華料理屋を経営している親戚がいて、
そこの家に泊まっていたが、
わざわざ声をかけてきたので私が招待することになり、
何料理がよいかときいたら、
毎日毎日、中華料理だから、神戸牛のビフテキを食べたいと言う。
うちの夫婦も加えると総勢九人になって、
ちょっとお金がかかると思ったが、
こんな時ケチると笑われるから、
意を決して芝にある有名なフランス料理屋に案内をした。
中国人はご馳走になる時はあまり遠慮をしない。
生がきとか、サーモンとか、一人一人好きな前菜を注文し、
スープのあと全員が特上肉のビフテキを注文した。
料理がでてくると、その度に、味がうまいとか、
ソースのできが悪いとか、遠慮のない批評をするだけでなく、
必ず、この料理はいくらかと値段をきく。
何しろ世界中、食べてまわっているから、
どうしても味の比較になり、つづいて値段の比較になる。
一流レストランの名前が次から次へととび出してきて、
はじめからおしまいまで料理の値段のことばかりだから、
もしウェイターが会話の内容をきき分けることができたら、
何という風情のない人たちだろうとあきれかえったに違いない。
中国人にとって料理の値段は
料理の味に負けないくらい重要なことである。
どんなにうまい料理でも、値段が一品すぎると、
あの店は高いからやめておこうという。
反対に値段に比べて味がよいと、
やっと納得して「安くてうまい」と言って褒める。
そういう店はたちまち押すな押すなの盛況を呈するようになる。
中国人は長いつきあいだからといって、情け容赦はしない。
ちょっとでも味がおちたとか、
不当なお金をとったりすると、すぐ来なくなってしまう。
だから、中華料理屋に行く場合、
中国人がらんさと入っている店であればたいてい間違いない。
味と値段のバランスがよくとれていて
失望させられることはまずないといってよい。 |