第44回
教育熱心でも学歴は重視しない その2
もう一つ、日本人は学校教育を人間形成の上で
不可欠のものと考えている。
四歳で幼稚園に行き、六歳で小学校に入り、
小学が六年、中学が三年、高校が三年、
そして大学は四年(ただし短大は二年、医・歯学部は六年)
を動かすべかざる若者の人間形成コースと信じている。
私などは台湾に生まれて、日本の教育を受けたので、
皆勤賞をもらうのが当然のことと考え、遅刻はもとよりのこと、
早退も、身内の葬式に行くのでなければやるべきことでない、
という雰囲気に育った。
家に経済的余裕があれば、
上級学校へ進学することは当然と思っていた。
万一、このコースからはじかれたりしようものなら、
立身出生はおろか、
人生の落伍者になってしまうとおそれおののいたものである。
ところが、うちの家内は広州の生まれで、
家はずっと香港にあったが、日本が香港を占領すると、
日本兵に乱暴されることをおそれて
親が子共たちこお金を持たせて奥地に逃がした。
戦争中だから、学校だって授業をやったりやらなかったり、
日本兵がきそうだとわかると、
もっと奥地まで逃げ込まなければならなかった。
そういうわけで、住むところも転々としたし、
学校も一カ所に落ち着いてはおられなかかった。
うの家内などは自分の足の形が悪くなったのは、
そのころ、運動靴もろくに買えず、
ワラでつくったつっかけを穿かされたせいだと
今でも恨みに思っている。
幸いにも戦争は高校生の時に終わったので、
大学は広州に戻って広州法学院にかよったが、
学校へ行くのだって途中で何回も中断しているから、
雨の日も風の日も必ず行くのが学校だ、とは思っていない。
ましてや学校に行かなければ、
人間は一人前になれないなどと思ってみたこともない。
このへんが中国人と日本人と教育について
一番意見の分かれるところであろう。
日本なら官庁に入っても、大会社に入っても、
ちゃんとした学歴を持っていなければ、
トップまで登りつめることは難しい。
中国人は大会社に入っても、
腕を認められれば学歴と無関係に
たちまち引き立てられて重要なポジションに就く。
自分で商売をやるということになれば、
そもそも学歴など間題にならない。
香港や東南アジアで成功した華僑の大物は
ほとんどが学校など行っておらず、
松下幸之助とか、本田宗一郎のような存在と思ったら間違いない。
組織の中に入ろうとするから学歴が必要になるのであって、
そもそも中国人のように組織を無視して、
実力だけで勝負する人たちにとって
学歴はどうでもいいのである。
人に使われる人だけが学歴を問われたりするのである。
そういう世界を生きてきているから、うちの家内などは、
学校は行かないよりは行ったほうがいいけれども、
無理に背のびをして行くところではないと思っている。
だからうちの長男がグレて高校を中退したいと言い出した時も、
少しもたじろがず、
「やめたかったら家を出て工場に行って働きなさい。
学校なんて行かなくてもちゃんとオトナになれます」
と言い放って一歩もあとに引かなかった。
日本の母親ならおろおろするところだが、
こういうところが日本人と中国人の違いと言ってよいかもしれない。 |