第30回
税金のとり方一つでも職人と商人は違う
日本人を理解したかったら、
自分の国の職人を頭に浮かべたらいい。
職人は腕に自信を持っている。
プライドを持って仕事をしている。
だから仕事のことでケチをつけられたら
死物狂いになって反論する。
しかし、それ以外のことについては
ほとんど意見を持たない、
職人だから親方の言うことをよくきく。
親方がいいと言えば、それでいいし、 ストなんか滅多にやらない。
したがって、 日本で会社の社長をやるのはお気楽なものである。
政治家やお役人はもっとお気楽である。
税金もとりやすい。
アジアの国々でアメリカの直接税法を採り入れて、
成功できたのは日本くらいなものである。
どんな税法だろうと、日本人は親方がいいと言うのだから、
それでいいと素直に受け入れる。
源泉徴収にしても、
税金を天引きしたあとの手取りを親方が渡してくれるのだから、
そのまま有難くちょうだいする。
おかげでアジアの地域で他に類例を見ない
高率の累進税率を適用しても、
大した支障もなしに課税に成功したから、
経済の発展によって富のふえていく過程で、
世界でも稀れに見る貧富差の少ない豊かな社会が実現できた。
これがアジアの他の地域に行くと、
もともと納税に対する意識が低いし、
徴税に値いするほどの収入もない。
支配階級だと収入があっても
権力をカサに着て税金なんか払わないし、
経済的に実力のある華僑はソロバン高いから
あらゆる方法を講じて税金を回避する。
当然のことながら、発展途上国で税金を徴収しようと思えば、
フランスと同じように
どうしても間接税中心の税体系になってしまう。
税金のとり方一つみても、
日本人とアジアのその他の地域では大きな違いがある。
この違いは職人気質と商人気質の違いとみることもできる。
もちろん、アジアの他の国々は
中国を含めて農業社会の域を出ないところが多い。
農民から税金がとれないことは先進国も同じだが、
農民以外から税金をとろうと思えば
商人たちからとるよりほかないが、
これがなかなか為政者の思う通りにならない。
まず、商人たちは儲かっても儲かっていないフリをする。
虚偽の申告がバレそうになると、役人たちを買収する。
反対に利権にあずかれそうなら、
どんな破廉恥な贈賄行為でも遠慮しない。
だからいつの時代も時の権力者から卑しめられる。
商人が士農工商の最下位におとしめられたのは、
権力者がいかに商人に翻弄されたかを物語るものであろう。
中国の歴代王朝はその政治的生命を維持するために、
皇帝だけは世襲制を維持してきたが、
隋唐の昔から官職の世襲制を廃止し、
考試制度を採用することによって
人事の硬直化を避けようとしてきた。
建て前からみる限り、考試制は世襲制よりすぐれているけれども、
もともと家族制度と人間関係によって組み立てられた社会だから、
科挙の試験に合格するためには、
今日の大学入試にみられる裏口入学から替玉受験に至るまで、
ありとあらゆる不正手段が横行した。
打関節という言葉が残っているように、
要路要路に気脈を通じておくことは常識であり、
なかには答案に予め記号をつけておいて、
それを目印にいい点をつけてもらうといった
芸の細かい買収行為もあとを絶たなかった。
官界への玄関口においてすでにこの始末だから、
役人になってからあとの、
派閥、汚職、猟官運動には凄まじいものがある。 |