第4回
箸の形も違うが、置き方まで違っている その1
どこの国に行っても、食事の時の礼儀作法がある。
上座と下座の区別があるし、
お客の坐る席とホストの坐る席との区別がある。
日本ならさしずめ床の間を背にした席が上座で、
出入口に近いほど下座になる。
なぜ床の間を背にしたほうが上座なのか、必ずしも釈然としない。
多分、座敷が庭に向いている場合、
床の間の側に坐っているほうが
庭を眺めるのにいい位置だからであろう。
ならば、庭に面していない座敷の場合はどうだろうか。
その場合でも、床柱を背にしたほうが
上座という習慣は定着している。
時代物の映画などで殿様の坐っている位置を見ると、
立派な置き物や掛け軸はすべて殿様のうしろにあるから、
殿様には何も見えない。
あれを見ていると、殿様も飾り物なんだなということがよくわかる。
日本の屋敷は大体四角につくられているが、
座敷も四角につくられている。
食事をする場合、食膳も四角につくられていて、
一膳ずつ畳の上に並べる場合にも、四角形に並べる。
丸いのは国旗の中の日の丸くらいなもので、
お膳を四角い座敷に丸く並べることはまずない。
一脚一脚のお膳が大きな机に変わっても、
机そのものが四角だから、四角い机をずっとつないでいくだけである。
四角に並んだ座席の一番奥の床の間を背にした
真ん中の席が上座ということになる。
日本の場合、上座とその周辺の上席に誰が坐るかは
ほとんどきまっていて、
来客がお互いに席を譲り合うといったことはほとんど見られない。
お膳を並べて食事をするしきたりは、
もとをいえば中国大陸から伝来したものであるが、
中国では明の時代にすっかり姿を消してしまった。
いまの中華料理は丸いテーブルを囲んで、
皆でつつき合う形になっているが、
どこが上座でどこが下座かは、
中華人民共和国になる前と後とでは少しばかり違っている。
台湾や香港のような古くからの習慣を墨守しているところでは、
入口のドアから見て一番奥の真ん中の席が上座であり、
その左右から下にくだるにつれて下座になる。
一番の下座は入口に近い側の真ん中の座席であり、
そこに坐った人がその日の勘定をもつしきたりになっている。
ところが、人民共和国になってからは、その日のホスト、
すなわち勘定を払う係が奥の中央の一番の上座に坐るようになった
テーブルの側から見て、主人の左が主賓、
右がその次に大事なお客という順序になり、
以下代わる代わる左右に席次が下がっていく。
どうしてこういう具合に変わったのか、私にはわからないが、
どこに行っても勘定をもつ人が一番偉いのだと思えば、
納得のできないことでもない。
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