中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第2回
こんなにも違う中国人と日本人 その1

「口」は「顔」より人間を浮き彫りにする
顔を見ただけで、中国人と日本人を
うまく見わけられる人が本当にいるだろうか。
飛行場の待合室で団体旅行のお客を見て、
「あれは日本人だ」「いや、あれは中国人だ」
と大体の見当をつけるのはそんなにむずかしいことではない。
着物を着ておれば、日本人、
長衫を着ておれば、中国人と簡単に区別がつくが、
男も女も同じような服装になって、
とりわけ若い人になると男も女も背が高く、
大根足どころか、女でも外股で歩くこの時代に、
中国人と日本人の区別がはっきりつく人がいたら、
ぜひお目にかかりたいものである。
少なくとも私にはそれだけの自信はない。

はじめて中国人に接した日本人、
あるいははじめて日本に来た中国人は、
「そんなことわけないさ。僕なら一目で見わけがつく」
と胸を叩くかもしれないが、
両国にまたがって足繁く通うようになると、
だんだん自信を失ってしまう。

ついこの間も台湾で
私と合弁事業をやっている日本企業の会長さんが、
台南市にあるエ場を見に行った帰りの飛行機の中で、
中華航空のスチュワーデスから中国語で話しかけられた。
ところが同行した現地駐在員に対しては、
ちゃんと日本語で話しかけた。
駐在員のほうは二十年も台湾に住んでいて、
奥さんも台湾の人なら台湾語も北京語も
ペラペラというのに、と本人はしきりに不思議がった。
「それもスチュワーデスだけじゃなかったんですよ。
飛行機から下りようとしたら、
パーサーが私に中国語で“再見“といい、
これには“サヨナラ“とわざわざ日本語で挨拶したんです。
台湾ははじめてですが、
私の顔はよっぼど中国人に似ているんですかね」
「そういえば、本当に中国人のお顔ですね」
と私も思わず相槌を打った。

日本人のなかには、誰が見ても
これは日本人だという風貌の人もあるが、
中国人と全く区別のつかない顔立ちの人もたくさんいる。
同じことが中国人についてもいえる。
では典型的な日本人の風貌と、
典型的な中国人の顔立ちというのがあって、
すぐにも区別がつくかというと、
見るからに日本的な風貌の中国人もおれば、
いかにも中国的な顔立ちの日本人も山ほどいるから、
話はややこしくなる。

さてそろそろ本題へ入ろう。
中国人と日本人は顔を見ただけでは区別がつかないと言ったが、
むろん、それは顔を見たところまでである。
その同じ人間に二言、三言何か喋らせたら、
たちまち何国人かすぐにもバレてしまう。
おとなになってから覚えた言葉は、
どんなに天才的な人でも、
一種言うに言われぬ母国語訛りがまじっているから、
アクセント一つで馬脚を露してしまう。
俗に「人ロ」というように、
口は人間の数を代表するが、
口の動きは顔よりもその人の表情を浮き彫りにして見せる。

まず人間の口は、食べることと喋ることと、二つの働きをする。
食べている間は文句を言わないが、
食べ足りないか、食べ終わると、すぐにも文句を言う。
だから、アクセントで、その人が何国人かわかってしまうが、
物の食べ方を見ても同じように何国人かすぐにわかる。
たとえば、中国人も日本人もどちらも米食民族である。
北の方に行くと寒すぎて米作ができないから、
粉食を主食とする地域もある。

しかし、これは中国も日本も同じで、餃子、大餅と、
うどん、そばの間には基本的に大きな違いはない。
東北三省の中国人もお米を食べるし、
北海道の日本人も、お米を食べる。
どちらにも、米食をすることに対する抵抗はない。
ただし、日本人と中国人ではお米に対する嗜好が違う。
日本人の食べる日本米は同じうるちでも、
インドや中国のパラパラした粘りのないお米とは品種が違う。

戦後、食糧不足によって、タイあたりから「外米」と称する
長くて細い米を輸入したことがあるが、
日本では国内の生産力が回復してお米が自給できるようになると、
全く見向きもされなくなってしまった。
もう一方の中国のほうでは、
日本人の嗜好に合わせて改良された
日本米に近い蓬莱米が台湾に定着したのと、
上海付近で一部、日本に近い品種がつくられているのを除けば、
日本とは全く違うパラパラのお米を好んで食べる。
好みの米の種類が違うだけでなく、炊き方も違う。

私は、電気釜は日本人の発明の中でも
最も日本人を髣髴とさせる傑作だと思っているが、
その電気釜が発明されるずっと以前から
日本には飯炊き専用の飯釜があった。
鍋よりずっと厚い銑鉄かアルミでつくられた釜の上に、
俎板くらいの厚さの蓋がのせられている。
なんでこんな厚い蓋が必要かと中国人は不思議がるが、
煮立ってきた時に汁が溢れ出ないように
抑えをきかせるためであろう。





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2012年8月7日(火)

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