第88回 生前贈与のための新相続税制
新制度を選択して失敗「遺産分割争いが泥沼に」
平成15年以後の贈与について行われた
贈与税の申告の内容を調べる必要が生じた場合には、
相続人等は税務署に対して過去
(原則の贈与税制を適用した贈与の場合は相続開始前3年以内、
新制度を適用した贈与の場合は全て)の贈与にかかる
データの開示を請求できるようになりました。
但し、税務署が開示する内容は
贈与税申告書に記載された
課税価格の合計額までの情報であり、
贈与財産の内訳までは開示しません。
しかし、この開示制度の創設に伴い、
遺産分割協議の際に
曖昧に取扱われがちだった生前贈与の有無が、
今後は重視されるようになると思われます。
例えば遺産分割協議が難航した場合、
生前贈与財産を「特別受益(注1)」や
「遺留分の減殺請求(注2)」の対象とするように、
贈与を受けていない他の相続人等から
主張される可能性が高くなると思われます。
注1:特別受益
特別受益とは、民法上の制度であり
相続税とは直接の関係はありませんが、
婚姻・養子縁組のため若しくは生活費などとして
贈与を受けた金額がある場合、
その金額を相続財産に持ち戻して相続分を計算する制度です。
例えば、父が亡くなり相続人はAとBの2人の子供、
相続財産は1,000万円あるとします。
Aは父から生前1,000万円の生活資金の贈与を受けました。
特別受益を考慮せずに相続財産を
1/2(500万円)ずつ分割すると、
父から取得した最終的な財産額は、
Aは生前贈与分と合わせて1,500万円、
Bは500万円となり不公平です。
これに対して、特別受益を考慮した場合には、
相続財産1,000万円に
Aへの生前贈与分1,000万円を合計した
2,000万円を相続財産とみなして、
それを1/2(1,000万円)ずつ分割した金額が
相続分となります。
注2:遺留分の減殺請求
相続人は相続財産の一定割合を
相続する権利(遺留分)を有し、
この遺留分が侵害されている場合には、
他の相続人等に対しその侵害されている部分について
相続分を主張することができます。
これを遺留分の減殺請求といいます。
例えば、父が亡くなり相続人はAとBの2人の子供、
相続財産は1,000万円あるとします。
Aは父が亡くなる直前に
5,000万円の土地の贈与を受けました。
この場合、相続財産1,000万円に
Aへの生前贈与分5,000万円を合計した
6,000万円のうち、
Bは法定相続分(1/2)の1/2、
すなわち1/4相当額の1,500万円について
遺留分を有します。
したがって、Bは相続財産1,000万円を全て取得しても、
まだAに対して500万円
(1,500万円−1,000万円)の相続分を
主張できるわけです。
なお、生前贈与された財産を
既に費消してしまっている場合には、
受贈者は他の相続人に支払う原資がないため
さらに話が複雑になります。
したがって、新制度を適用して贈与をする際には
あらかじめ家族でよく話合うとともに、
遺言で生前贈与分を遺留分を侵害しない範囲で
特別受益の対象から除外したり、
他の相続人に遺留分を放棄しておいてもらう等の
事前の準備も大切です。
執筆:(株)東京ファイナンシャルプランナーズ 税理士 鈴木寛
監修:公認会計士 山田淳一郎
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