密輸船に乗ってきた男との出会い

そうしたある日、蔡海童と自称する一人の男が廖文毅さんを訪ねてきた。私より十歳くらい年齢が上の三十四、五歳で、中肉中背だが、口中が銀歯だらけという感じの男だった。台湾の南部の東港というところの出身だが、京都で貴金属商をやっており、ヤミ船に神戸から乗り込んできたのだと言う。廖さんにつきそって同席していた私が、
「何のためにおいでになったのですか?」
ときくと
「ストマイとペニシリンを仕入れに来たのですよ」
という答えがかえってきた。
「誰かお仲間と一緒ですか?」
「いや、一人で来ました。船員として船に乗り込みましたから、歯ミガキとタオルしか持ち込めず、ごらんの通り着のみ着のままです。さっき下着を買ってきて、ホテルでシャワーを浴び、着替えてきたところです」
「ストマイやペニシリンを仕入れる店はおわかりなんですか?」
「所番地は一応きいてきましたが、なにしろ香港ははじめてですから……」
「じゃ道案内が必要ですね」
「ですから、ここへ伺ったのです。どなたか今日からでも私の案内をしてくれる人をご紹介していただけませんか?」
と蔡海童は廖さんにきいた。
「君が案内してさしあげたらどうだ?」
と廖さんが私のほうを向いてきいた。
「でも広東語がまるでちんぷんかんぷんですから」
「それでも蔡さんよりはましだろう。お金を換える要領だとか、薬問屋に行く道順くらいはわかっているだろうから」
「ぜひそうして下さい。お願いします」
と蔡さんが私に頭を下げた。
本当に何もやることがなくて退屈しきっていた時だったから、私はその日から蔡さんの道案内をすることになった。蔡さんは私たちが住んでいる通りから二筋ほどフェリーに近い通りの小さなホテルに部屋をとっていた。その部屋に連れて行かれると、蔡さんはいきなりズボンを脱いでパンツ一枚になった。どうするのか見ていると、脱いだズボンのベルトの裏側を鋏で切った。すると、なかから金の延棒が何本も出てきた。また別のところをほどくと、タテに折ったドルの束が出てきた。ズボンの折目の中からはダイヤが三粒ほど出てきた。全財産をズボンの中にかくして持ってきたのである。

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