「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第199回
骨董を見る目―生き残るセンス

源内焼三彩樹下人物図


Aさんがあわただしく店に入ってきた。
そして展示品の皿や鉢を『カーン、カーン』と指ではじいた。
商談中のお客さんが気を使い「大丈夫かね?」と僕の顔を見た。
彼はタクシー会社の会長で、
「金は唸るほどあるから、値打ちモン持っておいで」
と口癖のように言う。
居合わせたお客が「センスが悪いね」と言うくらいの人だ。

こんな事があった。
店に来て小さな宝石箱を開け、
濁った水晶のようなものを取り出した。
「これ、5カラットあるダイヤや。どや、大きいやろ」と言う。
クラックが無数に走っており、本当にどうしようもない代物だった。
「150万というのを値切って30万にさせたんや」と言う。
奥さんはセンスが良く、
「骨董を買うなら10個分まとめていいもの1個買うよう、
 お父ちゃんに言うて」
と、お目に掛かる度にこぼされる事再々。
案の定、この5カラットのダイヤの指輪を
奥さんが身につけたとは、トンと聞かない。

そんなAさんの家を尋ねたことがある。
鎧、兜、塗り物、そして新物が汚れただけの備前や丹波など、
山ほどコレクションしていた。
こんなケースは「これ処分したいが・・・」
と言う依頼が早晩必ず来る。
それに彼と付き合いのある不動産関係の人がこんなことを言った。
「彼は土地だったら何でもいいと思っとる。
 形のない地面でも、いいなと思うところがあるもんや。
 そこんところが分かっていない」
と笑っていた。

案の定、バブルの後状況が変わってしまった。
Aさんは骨董を売る為あちこちの業者へ声を掛けたが、
全部断られていたようだ。
最後に僕のところに来たが、結構強気の値段を崩さなかった。
僕の評価は1500万だったが、彼はその5倍ほどを想定していた。
少し厳しかったが僕はこうアドバイスした。
「処分するときは思い切ってやることが大事です。
 もたもたしているとどうしようもなくなりますよ」
Aさんの為を思ったからだ。
そういうと「一度良く考える」と言って帰ってしまった。

2年経ってAさんがひょっこり現れた。
「あれ処分できんかね?」と昨日のように言うので、
「あれから市場はもっと悪くなっています」
と伝えると、また帰ってしまった。
数年経ったある日、
「骨董はこりごり、大損した」と言うから
「幾らで売れたんですか?」と聞くと、
「全部で300万。君のアドバイス聞いとけばよかった」という。
「不動産はどうでしたか?」
「話にも何もならんよ」と言う。

タクシーが台数規制で守られた時は何とかなっても、
競争が激しくなれば様々な工夫をしなければならない。
そんな時やはりセンスが物を言う。
Aさんは絶対損するタイプだと思う。


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