| 第162回骨董と人―ある韓国人の手紙
 
           
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            | 8,9世紀ダバラバティ仏立像 |  ------------------------------------------------
 立秋とは名ばかりで、厳しい暑さで御座います。
 今年の暑さは何時になっても緩む様子がなく、
 毎日毎日熱帯夜続きで遣りきれません。
 ・・・・・中略・・・・・
 残暑未だ衰えを見せず、
 兎角悪疫の流行しがちな折柄、御自愛を祈ります。
 写真5枚同封2005年○月○日
 氏 名
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 上記差出人は韓国で製薬会社を営む現在85歳になるKさんだ。日本の占領時代に教育を受け、厳しい時代を生き抜いてきた方だ。
 終戦後彼は韓国政府の人事院に長く籍を置き、
 50代後半で自分の会社を起こされた。
 この人と接すると僕は背を伸ばし態度を改めてしまう。
 彼の話し方、ボキャブラリーの豊富さ、風格などがそうさせる。
 お金や地位などチラッとも見せていない。
 いわゆる教養というものがにじみ出ているのだ。
 「どうしてKさんはこんなに文章や会話がお上手なんですか?」と聞くと
 「私くらいの年代の韓国人は
 きちんとした日本の教育を受けましたから」
 と言うのだ。
 いろいろとあるけれど
 人を作る教育の質の高さを感じさせるKさんの言葉だった。
 ある時そのKさんが白鳳時代の青銅仏の写真を送ってきた。「この仏像が売りに出ていますが、本物でしょうか」
 と言う問い合わせだった。
 箱書きは、日本人なら誰もが知っている有名な彫刻家のものだ。
 26,27センチでの品で、価格は5000万円くらいだと言う。
 白鳳時代の青銅仏であれば決して高くはない。
 しかし、海外に渡った日本の骨董品の中には
 いささか、きな臭いものモノもあるので
 彼と幾度か手紙を往復させた。
 「島津さん、良く分かりました。この仏像は取り扱わないことにします」
 と言ってきた。
 因みに、本歌(骨董では本物のことをほんかと言う)であれば、
 2億円くらいする。
 そんな出来事の後、3ヶ月ほどしてソウルのYさんという一流の骨董商がやって来た。
 「日本のとてもよい仏像があるが、買いませんか?」と言う。
 そのときKさんが送ってくれた写真の白鳳仏が目に浮かんだ。
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