| 第151回骨董と人―笑顔の高僧
 
           
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            | 明交趾形物香合大亀 |  さる名刹の高僧の話。
 和尚さんは大の骨董好きとして広く名を知られており、
 骨董や茶の湯の著書も多数ある。
 忙しい時間の合間を縫って熱心に骨董屋を訪ね歩くので、
 モノもよく見え知識も豊富だ。
 僕など時々教えを頂く。
 その和尚さんは、こわもてする人で周りの人など腫れ物に触るような態度で接している。
 随分以前のこと、
 お寺の応接室で和尚さんと骨董の話をしていた。
 ドアを開けて女性の取次ぎの人が入ってきた。
 「○○先生がお見えです」
 と言いながら名刺を卓上に置いた。
 目をやると、
 その名前はテレビなどにもちょくちょく出てくる
 有名な政治家だった。
 ここに僕がいて邪魔をするのも悪いと思い
 「出直してきます」
 と立ち上がろうとした。
 「アンタの話のほうがよっぽど面白い。まあ、ここにいなさい」と言って、それから延々1時間ほどあれやこれやと話をした。
 忙しい政治家を待たしては申し訳ないし、
 こんなことをしていてよいのかと気が気でなかった。
 「和尚さんいいんですか?」と聞いてしまった。
 「1時間も早く来るほうが悪い。よっぽどヒマなやつじゃ。
 待たせておけ!」
 僕が聞いたので答えたのか、
 再度取り次ぎに来た女性に言ったのか、よく通る声で言った。
 隣の部屋にいる政治家には筒抜け状態だ。
 又、ある時和尚さんは僕の知り合いと一緒に芝居を見に行った。
 男女の別れの場面でぼろぼろ涙を流し大声で泣いたそうだ。
 「私はびっくりしましたよ。
 あの人の泣き場なんて考えられませんからね。
 それに近くの人がみなこちらを見るので、
 いたたまれませんでした。
 なんせ、目立つ人でしょう」
 と言って身振り手振りでその場の出来事を再現してくれた。
 思わず笑ってしまったが、
 和尚さんの物凄く心臓の強いところと、
 細やかな情を持った一面を表している。
                    (つづく・・・・) |