「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第119回
<とぴっく10>
コレクションは持ち主の顔

12世紀 高麗青磁印刻牡丹文皿

雨がしとしと降る日だった。
70代後半の男性と50歳くらいの女性が入ってきた。
「朝鮮陶器を持っていますが買っていただけませんか?」
と男性が丁寧に切り出してこられた。
「値段が合えば頂きます」と言って奥へ通した。

僕の店には月に何回もいろいろな売込みがある。
しかしマナーの悪い人ほどろくな物を持って来ないし、
盗難品なんかも混じっているかもしれない。
その逆に品の良い人の持ち物は総じてレベルが高い。
この男性はどこか身体でも悪いのか、歩き方がいまいち頼りない。
それを女性が支えるようにして付き添っている。
昨今骨董業界は厳しい時代で、
不動産と同じように
以前の買値の十分の一くらいに値下がりしたものもある。
二人連れの持ち込んできた品物がよいものであってくれ
と思いながら彼の顔を見た。

「とても良い状態の高麗青磁です」と彼は言い、
女性に促して二つの箱を手提げ袋からとりださせた。
そして箱ごと「どうぞ」とテーブルの上を僕のほうへ滑らせた。
あまり良い箱ではなかったので、一瞬がっかりしたが
紐を解いて中身を見、びっくりしてしまった。
これまで見たこともないような美しい翡翠色の鉢が出てきた。
鉢の中〈見込み〉に毛彫り〈極細〉文様で鳳凰と雲が描かれ、
申し分のない逸品だった。
他の一碗も白黒象嵌された牡丹の花がしっかりと描かれた、
なかなかの品だった。

「2点ともよいですね」と正直に言った。
僕は外国では絶対感心したり誉めたりしない。
プロ同士の戦いだから
足元を見られないようシビアにやっている。
老人はうれしそうに頷いて連れの女性を見ながら言った。
「生活の足しに少しでもと思ってね」
二人には込み入った事情があるらしい。
目の前に置かれた2点の作品は
非常に高価な値段で購入したらしい。
しかし、昨今北朝鮮から
朝鮮陶磁が中国経由で持ち込まれており、
値段が下がっている。
この辺りのことを彼に説明した。
「よく知っています」と言って不安そうに顔を曇らせた。


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