第102回
商品学(インド編)
99×99 の秘密II―日本人だってやるぜ
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アクバル大帝お妃の部屋
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「買わない客だな」という
先ほどまでの顔つきがいっぺんに変わった。
数人で入ったのに、僕だけ特別待遇みたいな感じで
中の小さな部屋へ「どうぞ、どうぞ」と案内された。
そのとき連れの人達も僕についてその部屋に入ってきた。
ここで負けては大阪商人の恥、と思うから、
そのマネージャーに
「この店で一番良いのを見せて!」ともう一度言った。
「日本人のオーダーで、
二年半かけて作ったベットカバーがあります。
25,000ドルですが買いますか」
と言うのだ。
広げられたベットカバーは物凄い細かな織りだった。
「ミスター、1日に2人がかりで5ミリも織れないんですよ」
と支配人がもったいぶった。
確かに彼の言うとおり、この布の織りは特別なものだと思った。
「25,000ドルって結構高いね。人件費どれくらい?」
と聞くと、
そのマネージャーはテレビで見た、
二桁の暗算をしていた男とまったく同じそぶりをして、
頭の中の計算機をはじいた。
「腕のいい職人ですから、1日10ドルです」といって
織機のところで働いている二人をチラッと見た。
1日20ドルとして900日をかけると18,000ドル、
それに絹糸代2,000ドルで原価が20,000ドルというのだ。
支配人はさらに5,000ドルは諸経費と店の利益と付け加えた。
ちゃんと計算が合っている。
しかしその時僕のほうではもっと現実的な計算が出来ていた。
「インド人の平均的な日当は2、3ドルくらいじゃないの。
二人5ドルも払っているの?
これくらいの織物だったら実働2年くらいでしょう」
僕は頭の中で700日を掛けた。
そうすると3,500ドル。それに糸代が500ドル。
すると原価が4,000ドルくらいだなとはじいた。
その計算を会話しながら瞬間的にやった。
「あんた、3,000ドルだったら買うよ」というと
支配人は白いベストを着た年配の社長を引っ張ってきた。
いろんないきさつがあったが
5,000ドルだったら売るということになった。
インド人の計算は本当に早いが、
基礎になるところをどう抑えるかによって
ずいぶんと交渉のやり方が変わってくる。
僕は3,000ドルで粘り通した。
その結果交渉は決裂してしまった。
どうやら4,000ドルくらいが原価だったらしい。
帰り際、「あんたの粘りはすごい。計算も早い」
といって社長と支配人がずいぶんと誉めてくれた。
勿論その店で買った布地などは
値切り倒してインド人もびっくり位の値段を出させた。
僕みたいな計算高い人ばかりだったら
日本のIT分野はもっと発展するのに。
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