「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第96回
商品学(チベット・ネパール編)
タンカ〈曼荼羅〉I―命の根源

チベットタンカ17世紀

われわれ日本人はタンカに描かれている、
あのおどろおどろしい仏たちの姿のどこがよいのか
と考え込んでしまう。
しかしよくよく見れば、
憤怒の相をした菩薩や守護尊の中に
たくましい生命力が秘められている。
そのような像を傍に置くと
あたかも菩薩や守護尊が
自分を守ってくれるような感じになるのだろう。
そうであれば、おどろおどろしくパワフルなほうが
頼もしく感じるだろう。
案外このあたりに、
タンカ(曼荼羅)図の本意があるのかもしれない。

わが国でも平安時代に同様の曼荼羅が作られており
各寺院や神社に伝わっているのもが多い。
チベットやネパールでは13,14世紀ごろから
多くのタンカが描かれ
人々の厚い信仰の基に複雑な図形を発展させている。

タンカのルーツは多分インドの仏教絵画であろう。
僕はかつてインドのアジャンタやエローラの壁画に
共通したものを感じた。
タンカには菩薩や守護尊が細かなタッチで描かれ
細密画といってよいほどのものがある。

タンカは昔からカトマンズの骨董店でも
びっくりするくらい高価なものであった。
50センチ角くらいで14,15世紀のそこそこのものでも
一万ドルぐらいする。
良いなあと感激するほどのものなら
5,6万ドルはするのだ。
ネパール、チベットの物価から考えて天文学的な価格だ。
17,18年前、僕はTデパートに頼まれて
ネパール・チベットのタンカを50点ほど仕入れたことがあった。

「島津さん、タンカの展覧会をやりたいと思うのだが
 仕入れできる?」
と、担当者が企画を持ち込んできた。
「仕入れは幾らでもやりますよ。
 しかし、このジャンルは慣れてないから
 いくらか買取をしてくれるんですか?」とぶつけてみた。


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