「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第85回
商品学(ミャンマー編)
緬鈴―えもいわれぬ音色の動く玉

民俗学者の金関丈雄先生によれば、
アジアのどこかに緬鈴と呼ばれる
非常に珍しい玉があると記述されている。

先は私がめぐり合った緬鈴と思われる玉の話をしよう。
それは13〜14世紀頃につくられた黄金の玉だった。
オリジナルは多分メノウで出来ている。
言い伝えによれば渋い輝きを発していて、
卓上に置くとまるで呼吸をするかのように玉が輝くらしい。
玉に手を伸ばし掴み取ろうとすれば、
自らころころと動き出し逃げてしまうのだそうだ。
邪悪な人、心貧しい人には決して捕まえることが出来ず、
いずれかに消え去ってしまうという。

しかし、心の清い、王者の風発するものあれば、
玉は微動だにしないといわれている。
また、慈悲深き王が玉を手中にすれば、
えもいわれぬ美しい音色が流れ、
その国の人々を幸せにするといわれてる。
以前にミャンマーの知り合いに聞いたことだが、
僕は全くの作り話だと思っていた。

ある時チェンマイの中国系タイ人のワンさんと話し込んでいた。
彼は中国人街で金行を営んでいる人だ。
ワンさんの資産は
店頭に並んでいる金だけでも大変なものである。
その彼は骨董好きで
僕の欲しいタイやミャンマーの素晴らしい仏像を
たくさんコレクションしている。
もちろん彼も好きで集めているのだが、
そこは根っからの商売人、値段しだいでは時々売ってくれる。
そんな訳で僕は彼のところへちょくちょく足を運んでいた。

ワンさんが言うのには、
14世紀頃のストゥーパから出土した黄金の舎利容器がある、
というから譲ってもらおうと出かけていった。
細い通りに数十軒の金行があるが
彼の店は相変わらず一番繁盛していた。
彼は僕を見かけると
40センチほどの幅しかないカウンターを手前に引いて
入って来いと手招きした。
中国人のビジネスの細かさと強かさは、
そのカウンターでさえ
ショウケースになっているということでよくわかる。
この根性が無ければ
華僑はこれほどアジアに進出できなかっただろう。
我々日本人も世界化というならば
ここにこれぐらいの強い商売人根性を持たなければ
やっていけないだろう。


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