| 第43回商品学(中国陶磁編)
 8.磁州窯−二度であった皿
 今から34年前マニラのある骨董屋で直径17,18センチのやや深めの皿を見つけた。
 見込みに鉄絵で牡丹の花が一花描かれていた。
 「アンタ、これ幾ら?」
 「ミスター、これはもう売れました」
 12世紀初頃のちょっといい感じの磁州窯の皿だった。「幾らで売ったんだ?」と聞くと、彼は上目遣いで
 「ミスター、アンタと同じ日本人の骨董屋が買いました」
 と言って教えてくれた値段は当時の日本円で30万円くらいだった。
 その時僕はその皿が少しも高価だとは思わなかった。
 それどころか買い逃がしたことを悔やんだものだった。
 「ミスター、こんなに線の強い、
 生き生きとした絵付けには中々お目にかかれませんよ」
 と店主も自慢げに言ったものだった。
 そして太い指を黒々とした鉄絵の線に幾度も這わせた。
 だからその皿の絵付けや化粧土の白さなどは
 頭の片隅に強烈に焼き付けられていた。
 二十数年後にその皿とは日本のさる所で再会した。その時僕のこの皿に対する評価はとても低くなっていた。
 この二十数年間に中国大陸から磁州窯の作品が
 洪水のように我国に押し寄せている。
 かつて鉅鹿で行われた発掘の何倍もの面積を掘り返しているのだ。
 磁州窯の名品珍品などが次々と海を渡ってきているのである。
 それに昨今は民芸運動もいまいち声高に唱える人もいない。
 民衆の日常生活という為、磁州窯作品は大量に作られているのだ。
 これから値上がりを期待するのは難しい面があるように思う。
 しかし、磁州窯の中にも北宋期の白磁黒釉掻き落しのような繊細な作品の中には名品の数々があって、
 それらが大量の日常作品の中にまぎれこんでいることもあるので
 見つければ買い場だ。
 個人的には翡翠釉や三彩、赤絵などの作品が好きだ。
 要するに磁州窯は作品数が多いから
 よく選ばなければ損をするということ。
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