第14回
実務編(4)
あるわけのない掘り出し物にめぐり合った話
土の中から、あるいは価値のないようなものの中から
探し出した宝物を掘り出し物と言う。
骨董世界では値打ちものを見つけたり、
思わぬお買い得品を入手したときにこの言葉を使う。
大概の店や骨董市では
専門家の骨董屋が十分に吟味して品物を並べているので、
殆どこのような掘り出し物にお目にかかることはない。
僕が昔フィリピンで遭遇した交趾形物香合中亀の話をしよう。
交趾の香合は殆どのものが
インドネシア、スラウエシ島から出土するのだが、
ごく稀にフィリピンからでも発見されることがある。
その日マニラはものすごく暑かった。
マビニ通りから、エルミタなど歩き回って頭もボーっとしていた。
結構美人の女主人がやっている店に入ると
安南の双魚文の盤があった。
高いだろうなと思いながら値段を聞くと二万ドルと言う。
この値段で持って帰っても殆ど利益は無い。
安南はインドネシアやフィリピンでは
日本よりも高く評価しているので儲けることはなかなか難しい。
すったもんだの末、一万二千ドルまで値切り倒した。
お互い何かフラストレーションが残っていた。
ふとテーブルの横を見ると
交趾の中亀の美しい香合がちょこっと乗っていた。
「アンタこれ、なに?」と聞くと
「チャイナ、ミンダイナスティ」と言うだけで
彼女は詳しい説明ができなかった。
「幾ら?」と聞くと
「千ドル」と思い切ったような言い方で値付けしてきた。
これはいただけるなと思った。
「サービスにつけておいて」と言うと
「あなた、これだけこの皿を値切っておいて
まだこのパウダーボックスをつけろと言うの」
と柳眉を逆立てて突っ込んできた。
この女店主はまだ30代後半だが
つい2,3ヶ月前にご主人を亡くしており、
ちょっとしたきっかけで
燃え上がってしまうようなところがあった。
「じゃあ、もういらん」
皿も中亀の香合も欲かったが思い切って切り込んだ。
案の定彼女はマニラ湾の河豚みたいに膨れ上がった。
「あなた500ドルください」と言ってきたが、これも蹴飛ばした。
「こんな詰まらんものいらん。インドネシアへ行けば山ほどある」
と言って、とうとう僕の安物のバカチョンカメラと交換した。
手に入れた中亀香合は
大阪藤田美術館に収蔵されている作品より
数段美しい逸品だと思っている。
店に入っての真剣な探し物、
疲れてふらふらになりながらの
女店主と丁々発止の三時間を越える交渉、
こんな苦労が掘り出し物を見つけるのだ。
この場合マニラと日本の価値観の差、商品知識などが
掘り出し物にめぐり合う条件だった。
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