第113回
一億総茶髪化
今どき、茶髪など珍しくもない。
スゴイのになると赤や紫、
はては三色旗みたいな派手派手しいのもある。
眼の色だってカラコンのおかげで自在になった。
黒眼を大きく見せるものやラメ入りのもの、猫眼や豹眼、
英国旗ユニオンジャックを図案化した
フラッグ系と呼ばれるカラコンだってある。
死んでもないのに白眼をむくなんてことは、今や朝飯前となった。
私は40年ほど前、一度茶髪になったことがある。
美容師の卵だった姉にむりやり実験台にされたのだ。
あれほど恥ずかしい思いをしたことはなかった。
山本夏彦翁言うところの「ニセ毛唐」になった気分だった。
脱亜入欧の成れの果て、という感じがした。
いっそチョンマゲのほうが救われる思いがした。
街に出れば、どっちを向いても茶髪、金髪のオンパレードだ。
たまに美しい黒髪の女性を見ると、
「よくぞ烏羽色の髪を守ってこられた」と、
ひしと抱きしめてあげたくなる。
叶わぬまでも、その凛乎たる気概と志の高さに対して
感謝状をあげたくなる。
それにしても、何のためらいもなく
一夜にして一億総茶髪化してしまう国というのは、
いったい何なんだ。
あまりにもあっけらかんとしているため、
かえって言葉を失ってしまうのである。
正直にいおう。
私は茶髪がきらいだ。
金髪もホンモノなら触ってみたいが、ニセモノはごめんだ。
とにかく日本人は黒い瞳に緑の黒髪、
と昔から相場が決まっているのだから、
勝手に相場を変えてもらっては困るのだ。
だいいち、いくら上手に染めたって、
ホンモノの金髪と並んだら、途端にメッキが剥げ、
チンドン屋になってしまうではないか。
精神の優劣からいえば、
明らかにホンモノのほうが優位性を保てるに決まってる。
戦う前から勝負あった、では具合がわるいだろ。
戦争に負け、いやでも引け目を感じているというのに、
あえて外人コンプレックスの裏返しみたいな
格好をすることもないだろうに。
これでは二重三重に劣等感を抱くことになる。
若いうちは、そりゃあ目立ちたいだろう。
でも右も左も茶髪金髪の大洪水では、
土台目立ちようがないではないか。
個性的に生きたいといいながら、
やっていることは愚劣な画一主義なのだ。
個性的どころか没個性の最たるもので、
まるで大量生産の規格品そのものだ。
「真贋」という言葉をいま一度噛みしめろ、と言いたくなる。
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